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メリーメリー、クリスマス

 バウタウンにあるシーフードレストラン防波亭は、オールシーズンどこをとっても賑わうような人気の店だ。 かつてジムチャレンジ真っ只中だった頃に素通りしたこの店へ、よもや今頃になって訪れることになるとは果たして誰が予想しただろうか。潮の香り漂う…

くらむ、くらい

「さんもお酒飲むんだ」 パンくずのひとつも残っていない食器を運んできたマリィが、出し抜けにそう持ちかけてくる。 なんのことだと彼女の視線を追ってみると、そこにあったのは食器棚の端にぽつねんと置かれていた酒瓶だ。半分ほどまで減ったそれに興味が…

君の背中を引き裂いて

「あれ……じゃん。どうかしたの?」 にわかに聞こえた、わたしを呼ぶ声。その優しくも独特な雰囲気に、下に向いて落ち込んでいた気持ちを一気に引き戻されるような感覚に陥った。 背後からかけられた声は、変声期を済ませたばかりの少年が持つ特有の空気を…

押しつぶされた心に

 ――気分転換をしてやろう! そう思ったわたしが行き先に選んだのは、つい先日オープンしたばかりの、シュートシティの遊園地だった。一人で来るにはあまりに不釣り合いな場所だけれど、マリィを見送ったあとのわたしの足は、なぜだかここに惹かれてしまっ…

綻ぶようにうなずいて

 ぼくが最低な言葉を吐いた途端、マリィは澄んだアイスブルーを大きく見開いた。え、と口を押さえる動作もただひたすらに愛らしくて、けれど、とんでもないことを仕出かしたという後悔も生まれて。結果、一瞬で周りの喧騒が無音と化す。 人もポケモンもごっ…

「亀裂」

「――ぷはあっ! ボリュームすごいね、ここ……!」 水分補給に選んだのは、モモンのみをふんだんに使った園内でも一番人気のフラッペだった。あたたかな気温もあってひときわ火照ったぼくたちの体を、染み渡る冷たさがしっかりと冷やしてくれる。「本当に…

やわらに震える

 なんとなく、心が浮つくような気がする。足取りがふわふわと跳ねて、世界がどこかキラキラして見えて。花屋で花束のひとつでも買ってやろうかと思う程度には、いささか今日のぼくは浮かれているようだった。 彼女が――マリィが喜ぶのなら、と一瞬本気で花…

君の恋路はアスファルト

「じゃあ、。あたし行ってくるけん……!」 右手と右足を同時に出さん勢いのマリィは、ふわりと良い香りを漂わせながらわたしに背を向けて歩いていった。目指すはエンジンシティの駅、ひいてはお兄ちゃんの待つブラッシータウン方面である。 今日は二人のデ…

少女にとっての決戦前夜

 ブティックというのはいいものだ。 わたしの出身地であるターフタウンにはブティックらしいブティックがなくて、こんなにオシャレで可愛い服を見ることなんてほとんどなかった。少し垢抜けたファッションの人はすぐにジムチャレンジャーだと気づけるほどあ…

空とおんなじ君の色

「ね、ね。マリィはお兄ちゃんのどういうところが好きなの?」 わたしがぐんと顔を近づけて言うと、マリィはなんだか面食らったように後退った。普段はあまり動かない眉をほんの少しだけ顰めて、べ、別に好きじゃなか……とバレバレの嘘をついている。「好き…

瞳の奥に想うもの

「よ、おまえはマリィのことをどう思っているんです」 スパイクタウン郊外にて、やけに群がってくるジグザグマをよけながら、ネズは事もなげにそう言ってみせた。妹の恋愛事情に首を突っ込むのはナンセンスだな、と以前二人で話しあったばかりなのであるが、…

君へのエール

「ねえ、お願いがあるんだけど」 控えめな、けれども凛とした呼び声にぼくはゆっくりと振り返った。向いた先にいたのは伏し目がちにもじもじと下を見ていたマリィであって、彼女はぼくの振り返る気配を察知してすばやく顔を上げる。 彷徨っていたらしい視線…