Log/SS(FE)

三日月と荒野の夜(クロード)

風の声すら消え去った真夜中に、涙の落ちる音がする。クロードはずっと知っていた。悪夢にうなされたウィノナが、時おり一人で泣いていること。声を押し殺して、月にもバレないよう努めながら、背中を丸めて喘いでいること。もう二度と一人で泣かさないと決め…

わかるか? 世界。(ディミトリ)近親愛

市場で見つけたとある本。生き別れの姉弟が紆余曲折を経て愛しあい、血縁という壁すらも乗り越えて幸せを掴む“おとぎ話”。私には理解ができなかった。こんな夢が現実になるわけはなく、そう、私の未来は頭上に広がる曇天のように暗んでいる。こんな結末あり…

春がくる(アッシュ)

 氷のように笑う人だと思っていた。まるで鋭利な刃物のような、気安く触れたら指先を傷つけてしまいかねない、そんな女性だと。 周りとは一線を画す空気感。張りつめた何かを持っている彼女は、少しだけ離れたところで陽だまりを見つめているような、そんな…

まっすぐの、目(リンハルト/ディミトリ前提)近親愛

「紋章持ちの近親者が、子を成した場合の紋章の有無……とても興味深いね。まさかこの目で観測できる日が来るなんて」 いつも眠たげにしている瞳をいやに爛々と煌めかせ、リンハルトは婚儀を済ませたばかりのディミトリとウィノナに目を向けた。 かつて黒鷲…

恵まぬ血の雨(クロード)

恥を忍んで訊いて正解だと思ったのは、痛みに喘ぐウィノナが少しばかり安らいだような顔を見せたときだった。なあ、ナデル……その、月のものに苦しんでる女はどうしてやったら喜ぶんだ――目をあわせられないままそう訊ね、山の向こうまで響かんばかりの声を…

凛としたその背中を思い(クロード)

何かに怯えていないだろうか。誰かに傷つけられてはいないか。どこかで、こっそり泣いていないか。余計な気を揉んでは彼女の背中を目で追ってしまう、そんな自分に自嘲をしつつ、それでもクロードはこの毎日をひどく愛おしく思っていた。たとえ徒労や杞憂であ…

届けない手紙(ディミトリ)近親愛

「拝啓ディミトリ殿下、本日はいかがお過ごしでしょうか? 先日はありがとうございました。まるで夢のようなひと時で、とても楽しかったです。まさか殿下とお昼をご一緒できるだなんて思ってもみませんでした、先生には感謝しないといけませんね。そうだ、実…

おべんきょうのじかん(ラファエル)

「ねえ、ラファエル? ふと気になったのだけれど、額の筋肉って鍛えられるのかしら」「ん、デコか? そうだなあ、オデ、デコの筋肉については考えたこともなかったぞ」「そうよね……私ね、閃いたのよ。もし額の筋肉をガチガチに鍛えられたら、頭突きで相手…

君のことが好きだから(アッシュ)

「ダメだよ、ウィノナ。ちゃんと僕の言うこと聞いて」「その言葉、そっくりそのまま返してやるわ……!」今日も夫妻は不毛な言い合いを続けている。事の発端は日々の公務でウィノナが体調を崩したことであり、たまの風邪によってふらつく彼女を半ば無理やり寝…

その声は君のためのもの(ディミトリ)近親愛

「ディミトリ。あなたは何も謝ることはないわ」ぎゅうと抱きしめてくるウィノナの腕の力は強く、もしかするとディミトリでなければ振りほどけないほどであったかもしれない。胸元に押しつけられた顔面はきっと誰にも見ることはあたわず、暗にここには2人きり…

雄大なる君のとなりで(クロード)

たとえ異国の土地であっても。言葉の通じぬ場所であっても、思想も生活も文化も異なる馴染みのない世界であったとしても。それでも隣に彼が――クロードがいてくれるのなら怖いものなど何もなかった。むしろ心はわくわくと逸り、まだ見ぬ景色に奮い立っている…

月は欠け落ち風が止む(アッシュ)

血溜まりに立つ夢を見る。愛おしい人と大切な記憶をこの手で切り裂くような夢。聞きたくもない断末魔は耳にこびりついて離れず、地獄のような光景のなか、涙を流すこともできずにただ佇んで夜明けを迎える。そんな夢から目を覚ますたび、私は隣に眠るアッシュ…