届かない五題

05.指先に触れたもの

「よっす!」 背中をぼふんと叩けば、こちらの存在に気づいてはいなかったらしい彼の、命を背負う強い肩が怒る。思わず後退りするほどの機敏な動きに、ついこちらのほうが怖じてしまったのだが、当人は至っていつもの調子なようだ。「……やっぱ気合いが入る…

04.いつも背中を見ていた

 まだ、外部居住区に住んでいた頃の話だ。 生まれ育った故郷を離れ、目の前で両親を喰われ、そして姉を失い。遺された弟2人は私が育てねばならないのだと、半ば脅迫めいた使命感に苛まれていた。 まだ10やそこらの子供だった私は、もちろん間違いだって…

01.その瞳の先は僕じゃない

 ヒバリちゃん! と名を呼ぶ、弾んだ声にはもう慣れた。 いつしか彼の笑顔は自分ではない誰かのものになっていて、そうやって笑う姿をただ見ているだけの哀れな自分。彼の恋愛相談……もとい、「ヒバリちゃん」が如何に魅力的であるかを熱烈に語られる、そ…