05.指先に触れたもの

「よっす!」
 背中をぼふんと叩けば、こちらの存在に気づいてはいなかったらしい彼の、命を背負う強い肩が怒る。思わず後退りするほどの機敏な動きに、ついこちらのほうが怖じてしまったのだが、当人は至っていつもの調子なようだ。
「……やっぱ気合いが入るねぇ」
「は?」
「こーこの、それ」
 眉を下げて笑うタツは、同じように私の背中に手を添える。しかし私のように力を入れることはなく、まるで父親が子を慰めるかのごとく、優しく、撫でるような触れ方だった。相手が相手ならセクハラだと責められそうなものだったが、あえてそれには黙っておく。
「いつも、おまえが居てくれたんだよなァ」
 背中を預ける安心感の話。3人が2人になったあの日から、支えあい、預けあってきた背中同士。君が居たから生きてこれた。君が居たから再び立てた。つかず離れず、持ちつ持たれつの距離感がお互いであればいいと願ってしまった私の、浅ましさに蓋をしてもう幾年になるのか。数えることには疲れてしまった。
 無二の相棒であり、パートナーである。アナグラきっての名トリオ、アナグラきっての名コンビ。誰もが私たちを認めてくれるようになった。誰もが私たちを慕ってくれるようになった。誰もが私たちを、名実ともに「名コンビ」だと謳ってくれるようになった。
 それでも私たちは、悲しいくらい“恋人”には届かない。