03.笑わないで、泣きたくなるから

「大丈夫だって、心配すんなよ」
 その言葉が空元気だということに気づいたのは、果たしていつのことだったろうか。
 防衛班の結成から程なくして、私自身平静を欠いていた自覚はある。私事ながら、無二の家族である弟の反抗期で消耗しきっていたのだ。「育ててくれと頼んだ覚えはない」簡潔すぎるその一言が、何よりもこの胸を抉り、そして鉛を落としていった。
 激化の一途をたどる神機使いの職務。散っていく命。ほとばしる血しぶき。身体中に染みつく血の、戦場の臭い。安らげというのが無理な話だ。強くあるには重すぎる世界だ。そんななかでも、彼はひたすらに笑う。けれどもその瞳には、昔のような輝きはない。濁りきった、泥水の色。
 たとえば、そんな彼に一言でも声をかけていられたら。少しでもこの、まみれた手を伸ばして、彼を気遣うことが出来ていたなら。僅かであったとしても、この運命をずらせていたとしたなら。
 そうしたら、あんな悲劇は起こらなかったかもしれないのに。泥の深まる彼の笑みを見ながらも、私には泣くことすら出来ない。