02.君にそんな顔させる原因はいつも彼

 朝である。地下に作られた居住区において、寝覚めを良くしてくれる日光なんか射し込んでは来ないけれど。枕元に鎮座する時計と、自然と目覚めるこの体が、今が朝だと教えてくれた。
 手短に、けれど手抜きではなく、最低限の用意を済ませて部屋を出る。仕事柄と性格だろうか、準備に時間をかけることの必要性を、それほど感じていないもので。どうせ何が変わるわけでもなし。
 鋼鉄製の、檻を思わせる四角い箱に身をゆだね、エントランスへと上がってゆく。移動手段と思えば耐えられるが、息苦しさと閉塞感を感じさせるこの乗り物は、あまり得意ではなかった。
 頭上の表示と電子音が、エントランスへの到着を教えてくれる。自動で開いた扉から下界へ降りれば、なんとなく胸の詰まりが取れる心地がした。周りを見回してみても、目立った人影はない。少し早く来すぎただろうか、どうしたものかととりあえず踊り場に入り、硬いソファーへと腰を下ろすと、程なくして階下より聞き慣れた声が耳に入る。体をひねり、ぐっと身を乗り出して見ると、そこには茶髪の受付嬢と、彼に夢中な幼なじみの姿があった。
 相変わらず手酷く振られているのか、受付にかじりつくようにうなだれる彼の姿が見える。こちらからは背中しか見えないので何とも言えないが、受付嬢の彼女も彼女で、いつもと変わらない曖昧な笑みを浮かべているのだろう。
 けれどなんだか、楽しそうだ。振られたって諦めない幼なじみも、彼をあしらう受付嬢も。どこかこの状況を楽しんでいるような、満更でもなさそうに見えるのは、きっと気のせいではないのだろう。
「……いいなぁ」
 お喋りに夢中な2人には決して聞こえていないだろうけれど。小さく、そして無意識に、羨望の言葉がこぼれ落ちていった。