原神

むすびの思い出

「重雲、純陽の体について考え方が変わったってほんと?」 がそう問いかけてきたのは、両国――否、三国詩歌握手歓談会が終わってから、三日ほど経った頃のことだった。 件の大会にはも共に参加していたのだが、よりによって最終日に体調を崩してしまったの…

氷の内側から

「おや……早かったね、フレミネ。今回は一人で帰ってきたんだ」「こそ、珍しいね。こんなところで掃除なんて……」「あはは、そうかい? リネくんとリネットちゃんはまだ帰ってないし、とくに任務もないから、少しはこの館にご奉仕させてもらおうかと思って…

さいごの機会

 あれから、はまるで見違えるように元気になったと思う。 その活力の理由が無理な妖魔退治をしなくなったからか、それともストレス源が減ったからなのかはわからないが、とにかく以前よりも生き生きし始めた彼女のすがたを見るのは、ぼくとしてもとても喜ば…

ふりだしの抱擁

 ――誰かの呼ぶ声がする。聞き馴染みのある声にそっと目を開けると、そこにはひどく気遣わしげにこちらを覗き込むが現れた。 突然のことに何も咀嚼できぬまま瞬きを繰り返し、少しけだるい体を起こす。ぼくが気づいたことに安心したのかはわっと声をあげな…

はじめての怒り

 少年方士の朝は早い――かつて行秋が、茶化したように言いながらぼくの鍛錬を眺めていたことがあった。あれは一体いつのことだっただろうか、もう何年も前のことのような気もするが……しかし、たとえ何年何ヶ月が経ったとて、ぼくが鍛錬の手を緩める日など…

ガンダルヴァー村の小さな一大事

 ――コレイがこっちを見てくれない。 何か変なことをしでかした覚えはないのだが、やけによそよそしいというか、挙動不審というか……俺が近寄るだけで飛び上がるし、話しかけてもいつも以上に取り乱して会話もままならないし、すぐに顔を真っ赤にしてどこ…

月明の逢瀬

 それはありふれた夜のこと。誰にも悟られないように、リネは極力気配を消してゆっくりと館の中を歩く。 ただ足音を消して、人の視線をくぐりながら進むだけ――このような小細工などリネットにはお見通しなのだろうが、同じように彼女が厚意で見逃してくれ…

ガンダルヴァー村の隠れた問題児

 先輩のことは尊敬している。ガンダルヴァー村でレンジャードクターとして活動する彼は、かつて共にアムリタで机を並べた同志であり、信頼している先輩の一人だ。 優秀な人間だった彼はそのまま医学者として教令院に残るのかと思われたが、どうやら様々な確…

琉璃百合が揺れる

「ヨォーヨは……今、外してるのか?」 こつん、と軽い足音と共に現れた人影を一瞥するのはピンだった。見慣れた居姿に何を思ったのか、彼女は恭しい客人相手に鼻を鳴らして、珍しく無愛想に答える。「なんじゃ、わざとらしい言い方をしおって。わざわざあの…

冬国の香り

 わたしが璃月へやってきたのはいわゆるただの気まぐれで、それほど大した理由じゃない。 まず、わたしはあの町から――甘くて優しい夢を見せてはそれらをすべて焼き尽くした、あの牢獄から抜け出したかっただけ。しあわせな思い出のいっさいは暴風によって…

あなたに許された世界

 手のひらのうえで揺れる銀色は静かに陽光を反射していて、その鋭い光が暗がりに慣れた目に刺さる。突然視界を覆ったそれに思わず顔をしかめながら、それでもは手をとめることなく、その物体をころころと遊ばせていた。 それは何度か転がしているうちにぽん…

相互

 ――タルタリヤが失踪した。その知らせをわたしにもたらしたのはあの女だった。 わたしに許されなかったメロピデ要塞への潜入任務も、請け負ったのはやはりというべきか、皆に信頼されているあの女だった。 そもそもとして、このフォンテーヌに来て不調を…