原神

身辺調査・その1

「最近の重雲? うーん……そうだなあ。変わらないと言えば変わらないし、変わったと言えば変わった、かなあ? ……まあ、あんなことがあったんだから、多少の変化は仕方ないと思うけど――」 人もまばらな往来を眺めながらそう答えるのは香菱だった。 彼…

おそろい、ですね

 ぐらぐらと、炎が燃えたぎっている。 それらは視界のいっさいを覆い、すぐそこまで迫ってきていた。怯んだわたしは足が竦み、ただひたすら震えることしかできない。 ――また、一人ずつ死んでいく。わたしの大切な人たちが、真っ赤なバケモノに飲まれてど…

落ち着いちゃうんだ

 天狗様が現れるときはいつも、さらさらと木の葉の音がする。それは天狗様がわたしと同じ草元素の「神の目」を持っているせいかもしれないけど、きっと葉っぱたちが天狗様のことを好きだからなんだろうな。 とても優しいその音はたまに眠くなっちゃうくらい…

わかってくれたかな?

「ねえ、タルタリヤ」「なに?」「わたし、ずっと気になってることがあるんだけど、聞いてもいい?」 かちゃ、と無機質な音を立てたのは、皿の上で眠るカトラリーだった。雑音と混じるそれはまるで子守唄のようであり、食後の充足感も相まってぼんやりとした…

おはようって、言ってくれるの

 寒いのはそれほど苦手じゃないけど、冬になると思い出すことがある。 冷たいベッドのうえで体を丸めて、耐えるように夜を越えていたあの頃。誰の声も聞こえなくなったがらんどうの家のなか、寒さや恐怖、孤独に震えながら、数え切れないほどの夜明けを待っ…

無くて七癖

「先生って、本を読んでるときに爪先をゆらゆらする癖があるよな」 コレイの勉強を見ている合間の、ちょっとした休憩時間のことだった。 次はどこを教えてやるかと、ティナリのつくった資料に目を通していたときだ。知らぬ間に俺の足元に目をやっていたらし…

瞳の奥の真っ赤な悪魔

 野蛮な人間のつもりはないが、コレイの笑顔を奪うような存在が現れたら積極的に払っていくと決めている。コレイには誰よりも幸せでいてほしいし、これから先の未来、不要な苦しみにあうことなく過ごしてほしいと願っている。 しかし、だからといって過干渉…

負けるわけにはいかないな

「――いつまでそうしてるつもりかな? さすがにそろそろ寝ないとまずいと思うけど」 時刻は深夜二時をまわろうとしている頃合いだ。何をしていたのか知らないが、は俺が帰ってくるまで寝ないで待っていたらしい。 今日は任務内容の事情で彼女を連れていく…

新たな友人

 は、今日も猫と戯れている。モンド城には野良猫がいくつも住み着いているため、ここの生まれであるには仲良しの野良猫がたくさんいるようなのだ。 ここしばらくは僕を待つ傍らでキャッツテールを手伝うことも増えているようだし、この子の野良猫ネットワー…

暗がりの輪郭を求めて

「……どうしたの?」 ぴたり。突然、のちいさな手のひらが俺の胸元にひっついてきた。まだまだ幼さの残るそれは素肌に触れるとくすぐったくて、思わず笑みがこぼれてしまう。「別に……なんでも、ないけど」「なんでもなくはないだろ? そんな神妙な顔して…

恋をしている

 ――先生! 今度っ……あ、あ、あ、あたしと、デートしてくれないか? ――きょ、今日はもう少し、一緒にいていいかな……? ――あ、あたし! 実はずっと、先生のことが……!「〜〜〜〜っ、ダメだダメだっ、無理だ……! ……はあ、どうしてあたしっ…

長所の裏側

「ねえ、嘉明? 今週も無駄遣いしたんでしょ、あんた」 の指摘によって、嘉明はあからさまにうろたえている。 普段の彼であれば、たとえば誰に聞いたんだとか下手な冗談はよしてくれとか、さり気なく追求をかわしてくるかもしれないのに、よもやこんなふう…