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凛としたその背中を思い(クロード)

何かに怯えていないだろうか。誰かに傷つけられてはいないか。どこかで、こっそり泣いていないか。余計な気を揉んでは彼女の背中を目で追ってしまう、そんな自分に自嘲をしつつ、それでもクロードはこの毎日をひどく愛おしく思っていた。たとえ徒労や杞憂であ…

届けない手紙(ディミトリ)近親愛

「拝啓ディミトリ殿下、本日はいかがお過ごしでしょうか? 先日はありがとうございました。まるで夢のようなひと時で、とても楽しかったです。まさか殿下とお昼をご一緒できるだなんて思ってもみませんでした、先生には感謝しないといけませんね。そうだ、実…

おべんきょうのじかん(ラファエル)

「ねえ、ラファエル? ふと気になったのだけれど、額の筋肉って鍛えられるのかしら」「ん、デコか? そうだなあ、オデ、デコの筋肉については考えたこともなかったぞ」「そうよね……私ね、閃いたのよ。もし額の筋肉をガチガチに鍛えられたら、頭突きで相手…

君のことが好きだから(アッシュ)

「ダメだよ、ウィノナ。ちゃんと僕の言うこと聞いて」「その言葉、そっくりそのまま返してやるわ……!」今日も夫妻は不毛な言い合いを続けている。事の発端は日々の公務でウィノナが体調を崩したことであり、たまの風邪によってふらつく彼女を半ば無理やり寝…

その声は君のためのもの(ディミトリ)近親愛

「ディミトリ。あなたは何も謝ることはないわ」ぎゅうと抱きしめてくるウィノナの腕の力は強く、もしかするとディミトリでなければ振りほどけないほどであったかもしれない。胸元に押しつけられた顔面はきっと誰にも見ることはあたわず、暗にここには2人きり…

雄大なる君のとなりで(クロード)

たとえ異国の土地であっても。言葉の通じぬ場所であっても、思想も生活も文化も異なる馴染みのない世界であったとしても。それでも隣に彼が――クロードがいてくれるのなら怖いものなど何もなかった。むしろ心はわくわくと逸り、まだ見ぬ景色に奮い立っている…

月は欠け落ち風が止む(アッシュ)

血溜まりに立つ夢を見る。愛おしい人と大切な記憶をこの手で切り裂くような夢。聞きたくもない断末魔は耳にこびりついて離れず、地獄のような光景のなか、涙を流すこともできずにただ佇んで夜明けを迎える。そんな夢から目を覚ますたび、私は隣に眠るアッシュ…

彼の言葉がひとつもあれば(ディミトリ)近親愛

「ウィノナが断るわけもない」そう言ってのけるディミトリは確信に満ちた顔をしていて、心の底から彼女に対して気を許しているようだった。彼女の愛を享受している。他人が言えば門前払いでも彼の言葉なら簡単に聞き入れてしまうのだから、彼女の首を縦に振ら…

狂おしいとはこのことか(クロード)

目と目があった。手が触れた。同じ空気を吸っている。それだけで胸が高鳴るのは隣にいるのがクロードだからだ。ウィノナはそばにいることだけでなく、彼の生涯の伴侶として愛されることまで許されてしまった。毎日のように想いが募る。彼の気配がそこにあるだ…

とある戦士の残した手記(ディミトリ)近親愛

 1186年 角弓の節 3の日。ファーガス神聖王国は、帝国への勝利と「救国王」の即位により、類を見ない騒がしさを見せていた。 景気が良い、喜ばしい、活気がある、そう言えば聞こえはいいのかもしれないが、こちらとしてはあれやこれやのてんてこ舞い…

新天地(クロード)

「くろ……ああ、違ったわね。ここではカリードだったんだわ」「ん、どうした。呼びづらいか?」「慣れない気持ちのほうが強いかしら。だって、私はずっとクロードと呼んでいたもの」「そうだな……ならそのままで呼んでくれ。ここじゃあクロードなんて呼び方…

雨と逢瀬(ディミトリ)近親愛

「ねえ、殿下。ご存知ですか? 人の声が一番綺麗に聞こえるのって、傘の下なんだそうですよ」囁くようなウィノナの声は、優しく、そして労るように俺の耳へと滑り込んだ。雨音に混じる互いの声。吐息と少しの足音が、なんとなく世界との隔絶を思わせる。「……