母を思う手
ディミトリの朝は、ぼんやりとした頭痛から始まる。 これでも一時期よりはずいぶんマシになったほうだ。かつては悪夢にうなされて一睡もできないことすらあったけれど、近頃は少しずつ睡眠時間も増え、いくらかは安らかな朝を迎えることができている。 頭…
ファイアーエムブレム 短編(ディミトリ) 細氷に光る懐刀
無二の宝物
「そういえば……最近、とはうまくやっているのか」 いつものごとく、ベレトはおもむろに口を開いた。数節に一度行われる、フォドラを統べる救国王とセイロス教の大司教の会合が一段落し、一旦の休憩に入ったときのことだ。 戦争の終幕とほぼ同時期にディミ…
ファイアーエムブレム 短編(ディミトリ) 細氷に光る懐刀
遠く離れたあなたへ
※子供がいる---拝啓 ディミトリ ごきげんよう、ディミトリ。ずいぶんと寒くなってきたけれど、そちらはお加減いかがかしら? と言っても、今あなたのいる場所は、季節による寒暖差なんてあまり関係ないかもしれないわね。 今日は星辰の節20日だとい…
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星辰の節20の日
真っ青な外套を翻しながら歩く背中は、初めて彼をまぶたに焼きつけたあの日に比べ、数倍広くなっている。 たくましく育った体にまとう鎧、澄んだ空のような瞳、月の光を反射して煌めく金糸。そのどれもが彼がファーガスの王たる現実を象徴しているかのよう…
ファイアーエムブレム 短編(ディミトリ) 細氷に光る懐刀
見えない、会えない、どこにもいない
※夢主が死んでる さしものフェルディアとはいえ、亡骸をそのまま置いといたらそう遠くないうちに腐っちまう。……陛下、せめて美しいままの姿でお別れを言って差し上げましょう――シルヴァンの、落ち着き払ったようでいてどこか揺れるような声色が、未だこ…
ファイアーエムブレム 短編(ディミトリ) 細氷に光る懐刀
小さなわがまま
ふたりっきりで休んでいるとき、ひどく甘えたで蕩けてしまうディミトリのことが好きだ。は今、誰もいない王の私室の中央に鎮座する寝台に寝転がり、愛すべき夫の体を優しく抱きしめている。 ツヤの戻ってきた髪を撫でていると心が安らぐ心地がする。指通り…
ファイアーエムブレム 短編(ディミトリ) 細氷に光る懐刀
たった二人の廓のような
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ファイアーエムブレム 短編(ディミトリ) 細氷に光る懐刀
寒さと熱さ
「お前を迎えに来たんだ」 そう言って微笑うディミトリは寒さで鼻を赤くしていて、肩にはちらほらと降ってきた雪がいささかではあるが積もっている。フェルディアでの積雪は特に珍しいことでもないが、それにしたって一国の王がこんなところに立ち尽くして待…
ファイアーエムブレム 短編(ディミトリ) 細氷に光る懐刀
とある静かな朝のこと
※朝チュン 「その……すまない。また傷を作ってしまった」 肩に触れる指は震えている。おそらく極限まで力を抑えているのだろう、そんなに気を遣わずとも壊れやしないのにと、は小さく笑ってディミトリの手に手を重ねた。 なだらかな肩には獣と見紛う歯型…
ファイアーエムブレム 短編(ディミトリ) 細氷に光る懐刀
咲ってほしいと思うから
花言葉というものを知っているか。それは、本の世界に度々出てくる少し詩的なお遊びだ。 今までの人生、はそういったものにあまり縁がなかった。花に気持ちを込めて普段言えない想いを伝える――そんな麗しいやり取りをかわすような友人も、親しい家族も居…
ファイアーエムブレム 短編(ディミトリ) 細氷に光る懐刀
雪は解け、草木はもゆる
「ねえ、ディミトリ。覚えてる? いつか私が、エーデルガルトに嫉妬していたって話をしたこと」 それは、爽やかな風が吹く夏のことだった。 フォドラの北方にあるフェルディアでは、夏といえど茹だるような暑さを感じることはない。ここは一年の半分以上寒…
ファイアーエムブレム 短編(ディミトリ) 細氷に光る懐刀
深層にかくして
――空が泣いているようだ。 そんな、自分らしくもない詩的な表現が口をついて出たのは、浮かれているせいなのだと思う。頭上にある青の外套が目の端に映るたび、私の心臓は親に褒められた子供のようにはしゃいでは跳ねた。 くすり。穏やかな吐息混じりの…
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