星辰の節20の日

 真っ青な外套を翻しながら歩く背中は、初めて彼をまぶたに焼きつけたあの日に比べ、数倍広くなっている。
 たくましく育った体にまとう鎧、澄んだ空のような瞳、月の光を反射して煌めく金糸。そのどれもが彼がファーガスの王たる現実を象徴しているかのようで、ある種の作り物めいた容姿は見るものに息を呑ませるほど美しい。右目を覆う漆黒の眼帯によって無骨な印象を強く突きつけられるが、しかし穏やかに微笑んでしまえば雪が溶けるような心地を覚える。
 武人と呼ぶに相応しいディミトリ王であるが、けれど彼はその反面、無性に庇護欲を掻き立てる独特の魅力を持っていた。
 そして、その事実は恒常と呼ぶに相違ないほど、このウィノナにどうしようもない歯がゆさをもたらしてくれる。彼がただの男でいられたら――国なんて背負わずとも生きていける、ただの個人のディミトリでいてくれたら。そうすれば彼はこんなにも身を粉にすることなく、おのれの何を犠牲にもせず、ただひたすら穏やかに、静かな日々を過ごすことができていたかもしれないのに。現実はいつだってままならず、まるで戯曲でも踊らせるかのようにディミトリに試練と苦難をもたらす。口惜しい毎日ではあるが、けれどもそれを当のディミトリは甘んじて……というか、ひたすら真っ向にて受けとめているのだから、よもや自分には何を言うことも許されまい。否、たまに口を挟むことはあるけれど、それが彼の掲げる正義で意志であるのなら、自分はいつだって彼の刃となり、その道を切り開いてみせようではないか。そう誓って早何年になるか、王として凛と前を向く彼の横顔を見つめながら、ウィノナはいつも案じている。
 誰よりも強く誰よりも優しい、そして誰よりも護りたいこの夫を――時には無二の弟を――世界中の誰よりもずっと案じて、そして、誰よりずっと愛している。
「ディミトリ、お誕生日おめでとう」
 夜空に輝く蒼月が城の真上に到達した頃。ウィノナはどこか囁くように、愛おしいたった一人の彼へ祝いの言葉を紡ぐのだった。

 
ディミトリお誕生日おめでとう!
20201220