ファイアーエムブレム

母を思う手

 ディミトリの朝は、ぼんやりとした頭痛から始まる。 これでも一時期よりはずいぶんマシになったほうだ。かつては悪夢にうなされて一睡もできないことすらあったけれど、近頃は少しずつ睡眠時間も増え、いくらかは安らかな朝を迎えることができている。 頭…

無二の宝物

「そういえば……最近、とはうまくやっているのか」 いつものごとく、ベレトはおもむろに口を開いた。数節に一度行われる、フォドラを統べる救国王とセイロス教の大司教の会合が一段落し、一旦の休憩に入ったときのことだ。 戦争の終幕とほぼ同時期にディミ…

星辰の節20の日

 真っ青な外套を翻しながら歩く背中は、初めて彼をまぶたに焼きつけたあの日に比べ、数倍広くなっている。 たくましく育った体にまとう鎧、澄んだ空のような瞳、月の光を反射して煌めく金糸。そのどれもが彼がファーガスの王たる現実を象徴しているかのよう…

見えない、会えない、どこにもいない

※夢主が死んでる さしものフェルディアとはいえ、亡骸をそのまま置いといたらそう遠くないうちに腐っちまう。……陛下、せめて美しいままの姿でお別れを言って差し上げましょう――シルヴァンの、落ち着き払ったようでいてどこか揺れるような声色が、未だこ…

寒さと熱さ

「お前を迎えに来たんだ」 そう言って微笑うディミトリは寒さで鼻を赤くしていて、肩にはちらほらと降ってきた雪がいささかではあるが積もっている。フェルディアでの積雪は特に珍しいことでもないが、それにしたって一国の王がこんなところに立ち尽くして待…