――ああ、やっぱり降ってきたか。
常夏雑貨店の軒先でぼうっと空を見上げながら、あめは思案にふけっていた。
梅雨の神であるあめは、なんとなくだが雨の気配を察知することができる。集落が健在の頃であれば雨を降らせることもできたが、集落が壊滅し、なけなしの神威でなんとか体を保っている現状では、天気予報がギリギリだった。
しかし、どうやらその天気予報もあまり正確ではないらしい。あめの予想では午後から天気が崩れる見込みだったが、生憎と今はまだ午前十時をまわったところである。神としての力もここまで衰えてしまったかと、思わずため息がこぼれてしまった。
「――おっと、ごめんよ! ちょっと失礼するね」
刹那、左方から騒がしい声とともに客人が舞い込んでくる。
……マウロだ。アズマの外からやってきた「よそ者」で、あめが復活するきっかけをくれた恩人でもある。
彼に対するあめの感情は、複雑のひと言に過ぎる。よそ者への嫌悪感と恩義の狭間で揺れながらも、生来の気質もあってか邪険にすることができない。おのれの中途半端な態度はあめの内心をやや曇らせ、か細いため息をつかせた。
「アンタも、雨でため息とかつくんだね」帽子や肩についた水滴を払いながら、マウロはよく通る声で話しかけてくる。
「そらあるやろ……まあ、あたしの場合は雨自体にため息ついとるわけちゃうけど」
「そうなのかい? ……じゃあ、どうして?」
「…………」
あめの眉間にシワが寄ったことを察したのか、マウロは苦笑いを浮かべたのち、それ以上の追求をやめた。……騒がしいだけの人間かと思っていたが、どうやら最低限の配慮はできる性質らしい。
元気な人間にしおらしい態度をとられると、どことなく罪悪感が募る。あめはみたびため息をついて、雨音とともに言葉をつむぎはじめた。
「天気予報が外れたからな」
「天気予報? ……ああ、あめさんは天気予報ができるのかい?」
「まあ……天気予報というより、雨の気配がわかるくらいやけどさ。んで、今日も昼頃から降りそやなーと思っとったけど、ほら、結果はこれやろ? 自分の感覚とえらいズレがあったから、そんなに力が弱まってんのかーと思って」
「ふぅん……そっか、まだあめさんは目が覚めたばかりだし、勘が戻ってないのかもしれないね。……でもいいな、天気予報! あめさんが一緒にいてくれれば、急な雨に降られることもなくなりそうだよ」
言いながら、マウロは澄んだ瞳を輝かせて笑う。それはまるで晴れ間の太陽であり、あめの内包する湿度をからりと払ってしまいそうだった。
「……そんなびしょ濡れでよう言うわ」あめは肩をすくめて笑う。やがて心中に広がっていた雨雲は薄くなり、切れ間から光が射している。その向こうには、夏の里にも負けないくらいのまばゆい太陽が輝いているだろう。
#novelmber 3.微光
2025/11/26
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