ミアレシティの喧騒と歓声のなか、タブンネ色のバレッタがせわしなく動くのを、特等席から眺めている。
アルトラはバトルが好きらしい。ガイにはあまりピンとこない感覚だが、ポケモンとともに切磋琢磨するのが快感なのだと言っていた。ポケモンバトルというのは傍から見ればひどく荒っぽくて危険なものだが――ZAロワイヤルにおいてはとくに――アルトラに言わせればこれはいわゆるスポーツに近く、純粋な暴力とは似て非なるもの、ある種のコミュニケーションらしい。
「コミュニケーション」と言われれば、たしかになんとなく理解はできる気がする。実際ガイはポケモンバトルという手段によって人助けを繰り返しているし、エムゼット団のみんなとも交流を重ねてきた。アルトラに対しても同じく、ポケモンバトルを通して彼女の人となりを知ったし、普段はあまり見ることのできない、どこかぎらついた視線を捉えることもできた。
胸のうちにある抵抗感とは裏腹に、ポケモンバトルはいつだって、ガイに何かを与えてくれる。
「ガイ、さすがに見すぎじゃない?」
そうしてぼうっと考え込んでいると、出し抜けにアルトラの声が飛び込んでくる。突然現実に引き戻されたせいで頬杖をついていた肘が滑りそうになったのを、すんでのところでこらえる。アルトラは苦笑いを浮かべながらガイのことを見下ろしていた。
「え、えーっと……」
「わたしが戦ってるとこずーっと見てたでしょ。そんなに心配しなくても負けないよ、わたし」
「そういうんじゃねえんだけど――」
「そう? ……あ、ていうかごめんね、待たせちゃってさ」
アルトラはガイの正面に腰かけ、ひのこローストに口をつける。その所作には迷いがなく、これがガイからの餞別であることをよく理解しているのが見て取れた。
ガイがアルトラと出くわしたのは一時間近く前のことだ。いつもどおり人助けをしていたとき、ランクアップ戦の真っ最中な彼女を見かけたのである。
用事を終わらせて再び戻ってきた頃、バトルはほとんど終盤だった。そのワンシーンを見ただけでもアルトラの圧勝であることがわかるほど、実力の差は歴然だったと思う。
「どうだったんだ? 今回のランクアップ戦は」蛇足のような質問を、ひのこローストの合間に投げかける。
「うーん……強いて言うなら『まあまあ』かな? 相手には悪いけど、負けるほうが難しいって感じ」
「そうかそうか、さすがだな! オレも早く追いつかねえと」
ガイが前のめりのポーズをとると、アルトラは満足気に笑う。
アルトラは、ポケモンバトルが好きらしい。ジムリーダーを目指し、日々研鑽をつむ彼女は、時としてどこか遠い存在に感じられる。
目の前でクロワッサンに舌鼓を打つ彼女は、決して雲の上の存在なんかじゃない。アルトラはエムゼット団の仲間であり、ホテルZで共に暮らす友人だ。手を伸ばせばすぐにでも届く距離にいるはずなのに、けれどもまるでひかりのかべでも貼られているかのような寂寥感が、たびたびガイを襲っていた。
その感情の出処については、今はまだ語るべきではないとひのこローストで流し込む。
#novelmber 8.慕わしい
2025/11/27
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