※微妙にネタバレ注意(かも)
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秋の野原の北部にこじんまりと存在する、ターゲスアンブルフの居留地。首領であるクラリスは、冬の里に移り住んだあともなお、定期的にこの地へと足を運んでいた。
主な目的はやはり、先日の戦いで重傷を負ったヒルダのお見舞いである。もちろん、ベイロンほか同胞たちの様子を見ることも欠かさない。
クラリスはいつも、里での楽しい話をしよう、少しでもヒルダを元気づけようと決意をかためてテントに顔を出す。しかし、ヒルダの首に巻かれた痛々しい包帯を視界に入れるたび、その決意は簡単に揺らいだ。
「姫様……どうか、そんな顔なさらないでください。私は見ての通り回復しておりますし、この傷は姫様のせいではありません」
「だが……っ」
「傷はほとんど塞がっています。ありがたいことに、後遺症などの心配はないと診断もいただきました。きっと、もう間もなくこの包帯もとれると思いますから――」
ね、と無機質に微笑むヒルダに、クラリスは渋々ながらもうなずく。
「そういえば、そちらの暮らしはどうですか。冬の里の皆様は姫様によくしてくださっていると、アースマイトから聞きましたが」ヒルダの意外な言葉に、クラリスは目を見開く。
「スバルさんもこちらに来ていたのか」
「ええ、先日。私が起き上がれるまで回復しているのを見て、胸をなでおろしておりました。そのときに姫様のことや、冬の里の皆様のお話を聞いて」
「わ、私の知らないところで、そんなッ――スバルさんは何か、変なことは言っていなかったか」
「もちろん、何も聞いておりません。強いて言うなら、あのフブキ様が姫様のお力になってくださった、と――」
――フブキ。その名前を聞いて、クラリスはちいさく声をあげた。
突然まばたきの数が増えた彼女に、ヒルダは凛とした眉を怪訝に染める。探るような彼女の視線に、クラリスの口から出たのは弱々しい謝罪だ。
「すっかり忘れていた……」言いながら、クラリスは出がけに彼と出くわしたことを話しはじめる。
「冬の里を出る間際、フブキ様に呼びとめられたのだ。何か言いたげな様子であったから、よければフブキ様もご一緒に、と誘ったものの……さすがに断られてしまってな」
「そうですか……」
「どうやら、フブキ様はお前のこともひどく気にかけてくださっているようだ。理由はおそらく――」
どうしてフブキがクラリスを呼びとめたのか……考えずとも、その理由はすぐにわかった。
「ハウンドの件……でしょうね」
ヒルダの指先が、真っ白な包帯を撫でる。静かに伏せられたヘリオトロープの瞳は、この傷を負うに至ったあの惨劇を思い出しているのだろう。
きゅ、と引き結ばれたクラリスのくちびるは、うまく動くことができなかった。何を言っても、どんな慰めをかけても、その傷口を開いてしまうように思えてならなかったからだ。
刹那、クラリスの耳には誰ともしれない声が響く。これもまた「罰」なのだと。数々の略奪を繰り返したおのれと、この身に流れる血が叫んでいる。過去は平穏を許さないし、こうして罪のない同胞もまた、幾度となく巻き込んでしまうものなのだと。
「――そういえば昨日、近くにモコモコの親子が遊びに来ていたんですよ」
……暗い顔をしていたからだろうか。ヒルダにしては精いっぱいの明るい声が、重たい沈黙をやぶり、まるで童話のように穏やかな日常を紡ぎ出す――お見舞いにきたのは、こちらのほうだと言うのに。
痛々しい従者の気遣いに罪悪感をおぼえながら、クラリスはそっと彼女の話に耳を傾けた。
#novelmber 25.おぞましい
2025/11/24
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