「ヒヤップ、ヒヤッキー、おいで! 一緒に水やりしよう!」
アルトラの弾んだ声が、ホテルZのエントランスに響く。軽い足取りの彼女を追いかけるのは、いつも以上にご機嫌で笑っているヒヤッキーと、最近仲間になったばかりのヒヤップだ。
ポップな効果音が聞こえてきそうな一人と二匹は、キョウヤの目の前を通りすぎてエントランスを出ていった。かちゃん、と静かに閉じられた扉を見届けてから、ようやっとキョウヤは口を開く。
「水やり……?」
「ホテル内の観葉植物とか、表の花壇やプランターとかだね。そのへんの管理もアルトラたちの担当だし」
独り言のつもりだったひと言に飛んできた返事は、キョウヤの体を二センチほど宙に浮かせた。「ピュールだったら叫び声あげて倒れてるかもね」いたずらっ子のように笑いながら、タウニーは言う。
「た、タウニー、いつの間に……?」
「さっきからずっといたし。休んでるAZさんの代わりに、カウンターの下で備品とか数えてたんだけど」
「全然気づかなかった……」
「だろうね〜。キョウヤ、ずーっとアルトラのこと見てたもん」
タウニーの笑みはひときわ濃くなる。含みのあるそれによって一気に居心地が悪くなったが、ここでにげるのもどこか癪だ。気まずさをこらえながら視線を彷徨わせると、窓の向こうでヒヤッキーたちと共に庭木の世話をしているアルトラのすがたが目に入る。
アルトラはとても楽しそうだ。ヒヤッキーの放水を見守ったり、ヒヤップに庭木のことを教えたり……丁寧に花の手入れをする彼女は誰よりも愛らしく映る。たとえるならそれは、しろいはなのフラエッテのようだ。
「キョウヤ、このあいだフラエッテを見ながらアルトラに似てるって言ってたもんね」
「あ……あれ、オレ口に出てた……?」
「べつに?」
「じゃあなんでわかるんだよ」
「顔に書いてあるし。ちなみにあたしはフラエッテよりもタブンネのほうが似てると思う」
言いながら、タウニーはまるで厄介払いでもするかのようにキョウヤのことを追いつめる。気づけば彼の背後にはエントランスの扉が迫っていて、背中にそれがぶつかった次の瞬間には外へと放り出されていた。
扉が閉まる刹那、にんまりと笑うタウニーの「くろいまなざし」がこちらを見ていた。「呆けてるくらいならアルトラの仕事手伝ったげて」という、ごもっともな言葉と共に。
突然とびだしてきたキョウヤにもひるむことなく、アルトラはホースを片手に駆け寄ってきてくれた。心配そうにこちらを覗き込む彼女とポケモンたちを見ると、なけなしの良心がじくじくと痛む。
「キョ、キョウヤ……? どうしたの、これから出かけるのかな」
「ああ、いや……そう、タウニーにさ、アルトラの仕事手伝ってって頼まれちゃって」
「ほんとう? 助かるよ! 今日はひざしがつよいから、いつもよりたっぷりお水をあげないといけないからさ」
「アハハ……お役に立てれば、何より……」
#novelmber 13.最適解
2025/11/23
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