もらっちゃった

 ……なんだか視線を感じる。否、二人で一緒にいるのだから見られるのは当たり前だが、それにしたってあまりにも、ガン見しすぎではないだろうか。
 とはいえ、リナリアにはマサルの視線の理由がわかっていた。こんなふうに見られるのは今年で六回目になるだろうか? 背後から刺さる視線に微笑ましい気持ちになりながら、リナリアは最後のお皿を食洗機へと突っ込んだ。

「あの……マサル? 一応言っておくけど、わたし、ちゃんと覚えてるよ」
「うん、わかってる」
「じゃあなんでそんなに見てるの?」
「べつに……」

 キッチンでの用事をあらかた済ませて、マサルの待機するリビングへと戻る。先日タタッコが暴れたせいでわずかに凹んだソファへと腰かけ、マサルの手を取って見つめた。不服そうなその表情がポーズであることを、リナリアはよく知っている。

「なんでぼくがこんな顔してるか、わかる?」
「うん。一年目にわたしが忘れてたこと、ずっと根に持ってるからでしょ」
「正解――だけど、なんでそんなにこにこしながら答えられるんだ……」

 わがままを発揮しているのは自分のくせに、マサルはそんなことを言う。当代ガラルチャンピオンはその実すこしだけ甘えんぼで、普段はスマートかつキザったらしい振る舞いもするくせに、時おりこうして妙なわがままを言うのだ。
 根っこの善良で理性的な部分と、本能的なあまえの狭間で揺れるマサルを、リナリアは何度も見てきた。そして、誰よりも愛している。

「なんでだと思う?」
「……リナリア、ずいぶん意地が悪くなったんじゃない?」
「ふふ、そうかも。でもねえ、それはマサルに似たんだと思うよ」

 それくらい、わたしたちってずっと一緒にいるもんね――
 言いながら、リナリアはそっとマサルに寄りかかる。すっかり男らしくなった肩に頭をあずけてみると、頭上が細く長いため息が聞こえてきた。そのため息にはいったいどのような感情が込められているのだろう? わずかな空気の動きとマサル本人の仕草から彼の考えを読み取る、その能力もこの数年ですっかり鍛えられた。
 寄りかかっていた体を起こして、気まずそうな頬にキスをする。声にならない声をあげて目をそらすマサルは、きっとこのガラルに住まうどんな生き物よりもかわいい。

「……ダメだ、降参。ぼくの負け」

 頬を赤らめながら両手を挙げるマサルに、リナリアはくすくすと笑う。圧倒的な強さを誇る英雄の情けないすがたは、六年前の少年とちっとも変わっていなかった。
「今日は二人っきりでゆっくりしようね」リナリアの言葉に返ってきたのは、ほんの少しだけ熱っぽいキスだ。
 カレンダーなんか見なくたって、今日の予定は知っている。だって毎年そうだから。ポケモンたちも空気を読んで散歩したりボールの中で昼寝したりと、それぞれ思い思いの時間を過ごしてくれている。
「ほんと、いじわるになったよなあ……」ずいぶんと低くなった青年の声は、リナリアの鼓膜の奥の奥に、心地よく響いている。

 
#novelmber 21.誰の?
2025/11/17

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