デジャヴ

「――じゃじゃーん! みてみて、キョウヤ! おっきなヤナップ捕まえたの!」

 逸る足取りでホテルZへ帰る道中、運良くキョウヤと出くわした。今にもとびかかる勢いのアルトラに面食らったのか、彼はクールな双眸を何度もしばたたかせている。
 アルトラの隣にいるのは先ほど捕まえたばかりのヤナップだ。大はしゃぎの主に手を引かれて戸惑っているのだろう、ヤナップはその大きな体を少しだけちいさくしながら、うろうろと視線を彷徨わせている。
 キョウヤはアルトラとヤナップの顔を交互に確認し、あっと声をあげた。どうやら、ヤナップの持つ体躯以外の「違和感」に気づいてくれたらしい。

「もしかしてこの子、色違い……なのか?」
「そう! さっすがキョウヤ、正解!」

 タブンネのような愛らしい笑みを浮かべながら、アルトラはヤナップに抱きついた。
 
 先立ってに屋根の上で起こった、運命の出会い。半信半疑でヤナップたちの群れに近づくなか、アルトラの脳裏にはある既視感が芽吹こうとしていた。
 一歩一歩と近づきながら、デジャヴの正体を探る。いったい何をよぎらせているのか? 群れのヤナップたちに気づかれぬよう注意をはらい、さっと物陰に隠れた。
 アルトラの脳の奥の奥に潜む、鮮烈な記憶。ひどくモヤがかったそれがヤナップの後ろ姿に重なったとき――その背中が音を立てて輝いたのだ。
 ――わかった! あの子、初恋の人に似てるんだ! そう気づくや否や、アルトラの両足は勝手に動き出していた。ヤナップが振り向くよりも早くヒールボールをぶつけ、捕獲できたのを確認したのち、屋根から飛び降りる。もちろん、ヤナップたちに群れの仲間を捕まえてしまったことへの謝罪も忘れない。
 そしてそのままの勢いで、ホテルZまで戻ってきたというわけだ。
 我ながら、なかなかパワフルな道のりを歩んできたなと思う。今になって心臓は大きな音を立てているし、膝も少し震えてきた。たまらずふらついたアルトラをヤナップとキョウヤが左右から支えてくれる――仲間たちの優しさには頭が上がらない。緩む頬を抑えきれないまま感謝を伝えると、キョウヤがどこか訝しむような目を向けてきた。

「なんか、ずいぶんご機嫌だね……?」
「んふふ、うん、そうなんだ。……わたし、ずーっとヤナップだけ持ってなかったでしょ。まあ、正確には『持ってなかった』じゃなくて『持たなかった』なんだけど……だからこそ、今日の出会いにビビッときちゃったんだよね」

 よぎるのは幼き日の思い出。姉の友人でもある彼らに遊んでもらっていた、あのまばゆい日々が忘れられない。
 くさタイプの扱いを得意としていたあの人は、まるで草木を散らすつむじ風のごとく、颯爽とアルトラの心を奪っていった。大人になった今はそれを淡い初恋へと昇華できているけれど、当時のアルトラにとってはひどく衝撃的で、燃えるような恋だったのだ。

「えへ……えへへ。嬉しいな……」

 噛みしめるようなアルトラの言葉を、ヤナップとキョウヤはすぐ近くで聞いている。
 ヤナップがどこか照れくさそうに笑っている反面、キョウヤの表情はどことなく薄暗かった。それは先日カフェ・ツイスターで見せたものによく似ており、彼の心中に芽生えはじめた感情を裏づける証拠のひとつでもある。

 
オヤブン★ヤナップの実データ、ちゃんとあります
#novelmber 31.重ねる
2025/11/08

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