※サイドミッション18バレ
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ベール広場近くにあるカフェ・ツイスターは、気まぐれなつむじ風が吹くが如く、いつもなにかしらの騒ぎが起きると噂の店だ。
少々根は張るもののコーヒーや紅茶の評価は高く、サイドメニューのタルトもあちこちで評判を耳にするほどである。大通りに面しているせいか客層も個性的なようで、「おもしろい客」が集うのだとマスターは言っていた。
そんなカフェ・ツイスターに新メニューが増えたと囁かれはじめたのは、つい最近のことである。昨日なんかは妙ににやにやしたマチエールから「アルトラもはやく行ったほうがいいよ!」などと言われて、正直とても気になっていた。
『アルトラ、今度暇なときある? オレ、アルトラと一緒に行きたいカフェがあるんだ。ほら、あそこのカフェ・ツイスターなんだけど……』
キョウヤからの誘いにアルトラが二つ返事で応じたのは言うまでもない。渡りに船とはまさにこのことで、逸る心を抑えきれぬままでんこうせっかの勢いで予定を調整した。
そして今、彼女の目の前にはカフェ・ツイスターの新メニューもとい「さん茶」と、爽やかないちごのタルトが君臨している。洗練されたそれらはアルトラの視線をとらえてやまず、彼女はまるで幼子のように瞳をきらきらと輝かせていた。
「このあいだ、マスターのサーバさんにヤナップたちを貸してほしいって頼まれてさ……それで完成したのがこのさん茶なんだよね」
「そうなの!? キョウヤ、すごい……!」
今のアルトラに、はしゃいだ声を抑えるほどの余裕は残されていなかった。
疲れをとる効果のあるヤナップの頭の葉に、三百度の炎をたくわえるバオップの頭の房。それから、ヒヤップの頭の房に溜まる栄養たっぷりの水――それらが合わさったこのさん茶は、「ひと口飲むたびに元気になる」なんて謳い文句でSNSを騒がせているらしい。
アルトラの目の前にあるのは、まるで夢を映した宝石箱だ。このひと時が終わってしまうことを惜しむあまり、口をつけるのも躊躇ってしまう。
「アルトラって、ヤナップたちのことほんとに好きだよなあ」キョウヤがそう口にする。彼の口振りに呆れの色はほとんどなく、むしろアルトラが視線を彷徨わせるのを見て、つり目をぐっと細めるほどだった。
まるで弁明するように口を開くアルトラのことも、キョウヤは優しく見守ってくれる。
「あの……あのね? わたしの故郷の町のジムが、レストランも兼任してたんだけど」
「うん」
「わたし、そのレストランも、ジムリーダーさんたちのことも大好きで……ちっさい頃からずっと憧れてたんだよ。だから、お猿さんを前にするとどうしてもはしゃいじゃって――」
さん茶の香りを嗅ぎながら、当時のことを思い出す。
アルトラの連れているバオップとヒヤップは、ミアレではなく故郷のイッシュ地方で出会ったポケモンである。町の近くの森に何度も通って、必死になって捕まえた。三匹セットの猿のうちヤナップだけがここにいないのは、出逢いに恵まれなかった以上に、彼女が在りし日の初恋を引きずっているせいかもしれない。
アルトラがかつてを懐かしむ傍ら、正面でさん茶を味わっているキョウヤはどこか含みある目で彼女を見ていた。その振る舞いはアルトラにとって見覚えのあるものだったが、どことなくキョウヤには似つかわしくない気もする。こうして直面しても信じがたいくらいには。
「ねえ、キョウヤ――」
「あんまり話し込んでると冷めちゃうだろ。ほら、せっかくだし暖かいうちにいただこうよ。今日はアルトラに元気になってもらいたくて来たんだからさ」
アルトラが何かを言うより先に、キョウヤは笑顔でもってそのすべてを撥ねつけた。そこに敵意や害意は感じられないものの、普段見ている幼げなそれとは似ても似つかぬ眉の角度に、なんとなく落ちつかないのもまた事実だった。
しかし、その微妙な違和感もさん茶の前ではもはや些事だ。アルトラは雑念を払い、再びテーブルと向き直る。
極上のそれを口に含む覚悟を決め、ティーカップへと手を伸ばした。
#novelmber 10.未解決
2025/11/05
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