「――ほら、美帆! 一緒に食べようぜ、半分やるから!」
まばゆい笑顔の嘉明に手渡されたのは、ほかほかの猊獣まんだった。細かいところまで趣向を凝らしたそれはウェンツァイによく似ており、今にも動き出しそうなほどイキイキとした表情をしている。
せいろのなかで並んでいたふたつのうち、より精巧につくられた一方が、今美帆の手のなかにある。寒い冬に受け取るそれは指先から美帆を温めてくれたが、体のぬくもりとは裏腹に、胸の内はひんやりとしていた。
渋い顔の彼女に気がついた嘉明は、猊獣まんにかぶりつこうとしていた口を一旦とめて、言葉をつむぐ。
「どうした? あれ、包子は嫌いじゃなかったよな」
「うん……」
「……あ、もしかして昔おふくろが作ったフワフワヤギのケーキのこと思い出してるのか? まさか、未だにこういうの苦手だったり……」
「ううん、平気。そういうのじゃなくってさ――」
美帆はちらと嘉明を見る。正確には、彼の手にある猊獣まんを。
決して人のものがよく見えているわけじゃない。「なんだ、こっちがよかったのか?」嘉明の言葉にも首を振る。なんとなく言い出しづらいのは、こんなにも子供じみた自分が情けなく思えるからだ。
冷たい冬の風によって、霓裳花の髪飾りが揺れる。……このままでは風邪を引いてしまうかもしれない。突発的なピクニック、もといデートがこの寒さによって苦い思い出と化すのは、美帆だって避けたいところだ。
美帆は意を決して口を開く。手のひらに置かれた猊獣まんを、そっとせいろに戻しながら。
「半分こ、かと思ったから」
「うん? 半分こは半分こだろ、オレにひとつ、それから、美帆にもひとつ」
「そうじゃなくて! ……ほら、昔みたいにさ。ひとつの猊獣まんを半分に割って分けっこするとか、そういうのだよ」
だんだんと尻すぼまりになる美帆の言葉を、嘉明は呆気にとられたように聞いていた。……これだから言いたくなかったのに。美帆はおのれの内面が子供じみている自覚がある。否、自覚「させられた」と言ったほうが正しいか。
鏢師として、はたまた威水獣舞隊の責任者として日々成長する嘉明。籐編み職人として卓越した腕前を持ち、奇門法術にも通じている藍硯。跡継ぎとして修行を重ね、璃月港にも顔が利くようになった梓豪。結婚して家庭を持ち、一家の大黒柱としての威厳を備えはじめた浩然。幼なじみたちは皆それぞれの道を歩み成長を続けているのに、自分ときたら……
不甲斐なさで視線を落とす美帆とは裏腹に、嘉明はけらけらと声を出して笑った。そして、ひどく愛おしそうに目を細めてこちらを見てくる。その視線の熱さといったら、璃月の冬なんて簡単に吹き飛ばせてしまえそうだった。
「そんなに笑わなくったっていいじゃん……」
「アハハ、ごめんって。ほんとにかわいーよな、オマエって」
「あんまり褒められてる気しないかも」
「そっか? じゃあこの猊獣まんを半分やるから、一緒に食べながら説明してやるよ。オレがオマエのどういうところを可愛いと思ったかってな――」
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2025/11/04
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