※手紙の内容バレあり
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「主さま、大丈夫ですか……?」
ふすまの外から聞こえてくるのは気遣わしげな毛利くんの声だ。その声色だけで、彼があたしをひどく心配してくれていることが伝わってくる。
大丈夫だよ、と言ってあげたいのに、あたしの喉はうまく動いてくれない。顔を上げることすらできないのだ。あたしは今、自室の隅で膝を抱えたまま、ぐちゃぐちゃと叫び散らす胸をなんとか落ち着けようとしている。
――信濃くんからの手紙が届いた。昨日とも、一昨日とも同じ時間に。あたしはそれを嬉々として受け取って、ちょうど隣にいた毛利くんと共に読もうとした。本当なら一人で読むべきだったのだろうけれど、待ちわびていたがゆえに気持ちを抑えることができず、その場で開いてしまったのだ。
こういうときこそ時間を遡りたいと思ってしまうけれど、審神者としてそんなことが許されるはずもない。
「――ここにいるとお邪魔かもしれないので、一旦作業に戻りますね。何かありましたら呼んでください」
そう言い残して、ふすまに映る毛利くんの影は消えていった。……ごめんね、毛利くん。元気になったらちゃんと謝るから、少しだけゆるしてね……
三通目の手紙に書いてあったのは、彼が酒井家の行く末をずっと見守ったということ。それはきっと何十年、下手したら百年以上に渡るもので、彼はかつてより何倍も目まぐるしい時間を過ごしたのだろうと思う。
『――大将も、いつかは俺より先にいなくなってしまうのかな? そう思ったら、急に帰りたくなってきた。すぐ戻るから、待っててね』
この文字を目で追った刹那、あたしは猛烈な吐き気に襲われた。そうして逃げるように自室へと戻り、隅っこで膝を抱えて震えているのが今である。毛利くんは、そんなあたしを追いかけて部屋の前で見守ってくれていたのだ。
あたしの吐き気の原因は、別に信濃くんのせいじゃない。この手紙が悪いわけでも、ふわりと香る墨の匂いにあてられたわけでもない。
……ただ、嬉しく思ってしまっただけ。信濃くんが帰ってくること。そして、信濃くんがあたしのことを考えて、あたしに会いたいと思ってくれたこと。そのどれもが嬉しくて、このうえなく最低だった。
胸がくるしくて、ひどくいたい。……あたし、どうしても認められない。自分のきもちを、受け入れられない。
だって、どう考えてもおかしいよ。あたしはただの人間で、信濃くんたちは神様なのに。神様相手にこんな気持ちを抱いて、人間みたいに接したとして、それじゃああたしは、彼ら「刀剣男士」たちをよもや人のように思っているということ?
そんなのひどく最低で、そして、とてもこわいことだ。……彼らはみんな神様で、だからあたしは平気なのに。あたしが信濃くんに抱くこのヘドロを認めて、彼らを「人」として扱ってしまったら、あたしはあたしのことを虐げたものと共に暮らしていることになる。
……そんなの、あたし、耐えられない。こわくて……怖くて、また何にもできなくなってしまう。
せっかく届いた信濃くんからの手紙は、あたしの涙でぐちゃぐちゃになってしまった。大切なものを大切に扱えないあたしは、やっぱり、どう考えてもおかしいんだ。
――明日、信濃くんが帰ってくる。それまでになんとかしなくちゃ。夜にはこの勘違いをなんとか解消して、毛利くんに謝って、いつもどおりのあたしでいられるよう、いつものあたしに戻らなくちゃ。
あたしはここの主なんだから。みんなを導く審神者ともあろう人間が、こんなふうに泣いてちゃあおかしいもんね。
2025/10/17
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