至上の名案

Ver.1.1.0アップデートのネタバレ
 あたまをからっぽにして読んでください。

 

 

「ちょうどいいところに来たわね、アースマイト。あなたに頼みがあるのだけど」

 淡々とした声がかけられたのは、スバルが居酒屋ヤチヨでコタロウと相席していたときのことだった。
 それはコタロウと二人で席に座り、ヤチヨに注文を伝えた夕暮れだ。「今日もたくさん働いたなあ」「おれもおれも! いっぱいイタズラしたし、いい一日だったなー」なんて和気あいあいと話し込んでいたときに、皿を持ったヒルダがやってきたのである。
 ぬっと現れた彼女にほんの一瞬身構えてしまったが、気づけばコタロウはヒルダに対して警戒をあらわにしなくなっていた。彼女がこの里に馴染んでいるところを目の当たりにすると、やはりなんとなく安心する。
「頼みごと……ですか?」スバルがそう訊ねると、ヒルダはわずかにこくりとうなずく。

「あなた、最近等身大パネルなんてものを配り歩いているそうじゃない」
「くば……いえ、別にそんなことは――」
「あのトレジャーハンターが言っていたけれど」

 ヒルダが視線をやった先には、ちょうど串だんごを口に含むマウロのすがたがあった。
 またあの人はあることないこと……! そう抗議しようとしたけれど、まるっきり否定ができないことも事実だった。とうとうスバルは何も言えなくなり、静かにヒルダの言葉を待つ。

「話を戻すわね。私にもその等身大パネルとやらをひとつお願いしたいのよ」
「フブキさんのですか?」
「逆だわ。私のものを、フブキに渡してほしいの」

 二人が連れ合いになっていることはスバルも知っている。結婚式にも参列したし、秋の里から冬の里に帰るヒルダを白竜に乗せたことだってある。
 しかし、だからといって彼女がそんなものを欲する理由はいまいちピンとこなかった。等身大パネルなんかをフブキに渡して、いったいどうするつもりなのだろう……?
 コタロウがおでんに夢中になっているのを確認したあと、ヒルダは少し声を抑えて話しはじめる。

「あなたは知っているかもしれないけれど……あの子、実はものすごく寂しがり屋なのよ。私の帰りが遅いととても寂しそうにしているし、夜ふかしばかりさせるのも気が引けてしまって」
「はあ……」
「だから、せめて私の等身大パネルを家のなかに置いておけば、少しは気が紛れるんじゃないかと思って――」

 スバルは何も言えなかった。ヒルダが冗談を言っているようには見えなかったからだ。
 スバルの心中を様々な感情がかけめぐる。パネルひとつで何が変わるんだとか、もしや自分はただの惚気に巻き込まれているだけなのだろうかとか――しかし、何を口にしたって現状が変わるとは思えない。この国に生きる生命たちは、皆いい意味でおおらかで、少しばかりいい加減だからだ。
 彼の出した結論はこれだ――「とてもいい案だと思いますよ。フブキさんも喜ぶんじゃないでしょうか」ツッコミを捨てた舞手は、シンプルな肯定でもって考えることを放棄したのだった。

 
2025/10/07

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