※ちょっと変換が特殊。
なまえ①→名前
なまえ②→あだ名
になっています。
あたまをからっぽにして読んでください。
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――お、あやねるじゃん。おはよ、今日もよろしくね。
あや袮の朝は、清光の妙な呼び方から始まった。あや袮が怪訝な顔をすると清光は首を傾げていたが、特に何の説明もなくそのまま去っていってしまう。彼の背中を見送りながら吐くため息は、ここ数日で一番重たかったかもしれない。
――おはようございます、あやねる様。本日のお加減はいかがでしょうか?
――あ、いたいた、あやねるちゃん! ちょっと訊きたいことがあってさー!
――あやねるさん、どうかしたんですか? なんだか顔色が悪いように見えますが……
すれ違う刀たちが皆、あや袮のことを「あやねる」と呼んでくる。昨日までは普通に主だ何だと言っていたはずなのに、ひと晩で何が起きたのだろう?
事の次第を確かめるため妹の所在を探したが、どうやらちょうど獅子王と共に買い出しに出ている最中らしく、信濃の前であからさまに肩を落としてしまった。こちらを案じてくれる信濃の気遣いを受けながらよろよろと自室の前まで戻り、縁側でうなだれているのが今、というわけだ。
(いったい何が起きているんだ……? 何か悪いものに憑かれているのかと思ったが、特に怪しい気配は感じられなかったし――とすると、誰か意図的にこの呼び方を広めたやつがいる……?)
足元の雑草を見ながら考え込んでいる最中、静かに近づいてくる足音が鼓膜に滑り込んでくる。うなだれた姿勢をゆっくりと正しながら音のほうに目をやると、そこには薬研の姿があった。
目があった途端、レンズ越しの藤瞳がわずかに見開かれる。……もしや、自分はそれほどひどい顔をしているのだろうか。
「どうしたんだよ、あやねる大将。また何か――」
「薬研……! ああ、おまえもか……っ!」
隣に腰を下ろす薬研をそのままに、嘆くように顔を覆う。悲壮感漂う彼女の様子には、さすがの薬研もどこかバツが悪そうだ――
「……すまねえ、大将。どうやら逆効果だったみたいだな」
薬研の謝罪に顔を上げる。困ったように眉を下げて笑う表情は、二人きりのときにはあまり見せない顔かもしれない。
「大将、最近ずっと暗い顔をしてただろ。だから、呼び方なりなんなりで茶目っ気を出せば、気が紛れるかと思ったんだが……」
悪かった、と頭を下げる薬研に、正直頭が追いつかない。とうとう何も言えなくなってしまったあや袮のためか、薬研は彼女を待つような調子で、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
彼は様々なことを説明してくれた。たとえば、「あやねる」という呼び方は現世での有名人から拝借したという。なるほど、道理でなんとなく馴染みがあったわけだ――
「……で、どうする?」膝に頬杖をつきながら、薬研はどこか含みを持って訊ねてくる。あや袮が眉間にシワを寄せると、その含みはなおさら濃くなった。
「このまま『あやねる』呼びを続けるか、それともすぐにやめさせるか……俺はどっちでもいいと思うがね」
「さっきまでの殊勝な態度はどこへいった――まあ、皆もすぐに飽きるだろうし、放置していて構わない。おまえの厚意を無下にしたいわけでもないしな」
「はは、そりゃあよかった。大将ならそう言うと思ったよ」
2025/10/03
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