理由は結局わからずじまい

 今日のタルタリヤは妙にご機嫌だ。
 何か良いことでもあったのだろうか? 鼻歌交じりに料理をつくったり、にやにやしながら武器の手入れをしたり……それを喜ばしいと思う反面、なんとなく落ち着かないのがミラという女だった。
 落ち着かない理由はひとつだ。その「ご機嫌」にあの旅人が関わっているか否か、それに尽きる。上機嫌なタルタリヤはひときわにミラのことを甘やかしてくるのだが、そこに旅人の影がちらつくと、やはりどうにも複雑なのである。
 君は本当にかわいいね、なんてぎゅうぎゅうと抱きしめたり、膝の上に乗せてきたり、ほっぺたをつまんだり、髪をなでたり――彼の機嫌の程度はスキンシップに表れる。旅人の影が不明瞭なのは癪だが、タルタリヤとのスキンシップをミラはひどく好んでいて、ゆえに機嫌のいい様子を見ると自然と身を寄せてしまうのだが――

「……ねえ、タルタリヤ」

 ただ、今日ばかりは少し違った。今のミラが求めているのは、ただのハグではなかったのだ。
 相変わらずウキウキしっぱなしのタルタリヤを見つめながら、ミラは訊ねる。どこかためらうような彼女の様子にタルタリヤは首を傾げて、その言葉の続きを待った。

「あのさ……今日は、その……きす、しないの」

 もごもごと動かすくちびるは、期待と迷いの両方をはらんでいる。
 タルタリヤは普段あまりキスをしてこない。理由はミラにはわからないが、その兆候はベッドの上になるとひときわ強くなり、彼のくちびるはミラの耳や首筋、まぶたばかりに降りてくるのだ。
 しかし、ミラだってたまにはキスもしたい。触れるだけのそれでもいいから、くちびるとくちびるで彼の温度を感じたいのだ。自分はキスが好きなのかもしれないと気づいたのは、こうしてタルタリヤと共に過ごすようになってからだ。

「……? あの、タルタリヤ……?」

 ミラのおねだりからしばらく、タルタリヤは何も言わなくなってしまった。不安に思って顔を上げると、目の前のタルタリヤは呆気にとられたような顔をしていたが、こちらと目があった途端、その頬をほんのりと赤くする。
 目をそらしながら口元をおさえる仕草を見るに、彼が嫌がっていないことだけはわかる。そっと胸をなでおろしながら、今度はミラのほうが言葉を待つ番だった。

「……したいの? キス……」
「うん……」
「ッ……はあ、そう。……まったく、いつの間にこんなズルい子になってしまったんだろうね――」

 言いながら、タルタリヤはぐいと身をかがめてミラのくちびるを奪ってくる。いつもより少しぬるいくちびるはミラの求めていたそれで、何度も何度も触れるたび、まるで波紋のように全身に熱が伝わってきた。ぎゅっと目を伏せて彼を感じる、この瞬間が好きなのだ。
 しかし、数回のキスで許してくれるようなタルタリヤじゃないことは理解している。案の定ミラはその後しばらく、がっちりと体を押さえ込まれることになるのだけど――それらはすべて、「ねだったのは君だろ」というひと言によって丸め込まれてしまうのであった。 

 

貴方は×××で『欲しいのは、そっちじゃない』をお題にして140文字SSを書いてください。
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2025/10/02

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