次元の違う恋心

「大将、今日は何のゲームやってるの?」

 信濃が部屋を覗いたとき、小綿は相変わらず液晶画面とにらめっこをしていた。
 曖昧な返事を流しながら中に入り、彼女の隣に腰を下ろす。そっと覗き込んだ画面には、男士たちに勝るとも劣らないきらびやかな男たちが何人も映し出されている。

「今日はねえ、乙女ゲームだよ」
「乙女ゲーム? それって、乙女になるゲームってこと?」
「うーん、当たらずとも遠からず……かな? まあ、ざっくり言うと美少女になって色んなイケメンと恋愛をするゲームって感じだよ」

 ま、ひと口に乙女ゲームと言っても、色んな種類があるんだけどね――液晶から目を離さずにボタンを操作する小綿を、信濃はじっと見つめた。その視線が向かう先は指先から液晶、時には小綿の横顔と様々で、彼の興味関心の居所が見て取れるようである。
「ごめんね、懐あいてなくて」小綿が言うと、信濃は左右に首を振る。

「俺、大将がゲームやってるところを見るのも好きだから」
「自分でやるより?」
「うーん……まあ、前提としてどっちも好きだよ。それぞれ楽しみ方が違うってだけ」
「そっかあ。でも、その気持ちもちょっとわかるよ」

 何気ない会話をはさみながら、小綿はゲームのイベントを進めていく。今はちょうど攻略予定のキャラクターと仲を深めているところらしく、彼の内面が描写されるたび、小綿は小さな唸り声を上げて顔を覆った。おかげでイベントはなかなか進まず、終わる頃には疲弊しきってしまったようで、セーブを行ったあと、本体をスリープモードに移行している。

「もういいの?」
「うん……なんか情報量で殴られたから、今日はこの感情を噛みしめるために一日を費やそうと思う」

 信濃を思い切り懐におさめながら、小綿は深いため息を吐く。
「懐におさめる」と言っても、実際のところ小綿のほうが信濃よりも華奢であるため、もはや抱きつくと言ったほうが相応しいのだが――小綿にとってはこのポジションが一番落ち着くらしく、定期的に信濃を懐におさめては物思いにふけるのだ。
 信濃からすれば、主の懐に入れるのはありがたいことである。ゆえに、それに関して何かを言うつもりはないのだけれど、近頃はほんの少しだけ、心境の変化が訪れている。

「大将はさっきみたいな人が好きなんだ?」
「えー? まあ、二次元のキャラクターとしてはそうかな。三次元だともっと大人で、包容力があって、優しいお兄ちゃんみたいな人が好きなんだけど……」
「じゃあ、そういう人と恋人になりたい?」
「うーん……や、今はいいかな。彼氏がいるとゲームする時間減るし、審神者の仕事もあるもんね」

 ねえ〜? と続けながらぎゅむぎゅむと抱いてくる小綿を、信濃はそのまま受けとめている。
 小綿が彼のふくみある相槌の真意に気づくのは、まだまだ先の話かもしれない。

 
2025/09/26

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