「にぃに、桉樹にぃに! 主人公さんは、そこからいったいどうなったの?」
深い深い琥珀の瞳を輝かせながら、ヨォーヨは身を乗り出して話の続きをねだってくる。
膝に乗せられた手のひらは熱を持っており、服を隔ててもその興奮が伝わってくるほどだった。
「落ちつけって。そんなに焦らなくても物語は逃げねえよ」
「あ……! そうだよね、ごめんなさい。ヨォーヨ、ついつい続きが気になっちゃって……」
「はは、そいつぁよかったよ」
ベンチに座り直したヨォーヨは、おのれの胸に手を当てながら深呼吸を繰り返す。規則正しく行われるそれからは、ピンばあやが彼女を大切に世話しているだろうことがたやすく見て取れた。
……懐かしいな。ひどく親しみのある呼吸法に、桉樹の双眸は優しく細められる。彼の亡き妻もかつてはピンばあやに師事しており、彼女からたくさんのことを教わっていた。そのひとつがこの呼吸法だ。
『こうして呼吸を繰り返すとね、どんなにドキドキしてもすぐに落ちつくんだよ』初めてそれを聞いたのは確か、彼女と手を繋いで散歩をしたときだっただろうか。桉樹にとって、彼女と過ごした日々はまるで昨日のことのように思い出せるものばかりだ。
幼くて、愛おしくて、最期まで直向きだった彼女を、桉樹は今も深く深く愛している。
「桉樹にぃに……? ぼうっとしてるけど、大丈夫?」
急に静かになった桉樹を心配したのか、気遣わしげな瞳を揺らしながらヨォーヨがのぞき込んでくる。「大丈夫だよ。ごめんな、急に」言いながら頭を撫でてやると、ヨォーヨは数秒だけ疑わしげな視線を向けたあとで、再びベンチに座り直す。素直に引き下がってくれるのは子供の良いところだ。
「『大丈夫』って言うの、信じますからね。あとでやっぱりダメだったって言っても知りませんよ」
ほんの少しむくれた頬をつつき、疑惑を払うように笑うも、彼女の機嫌が直る気配はない。
笑顔のごまかしは通用しなかったようだが、話の続きをちらつかせると打って変わって態度が変わる。……扱いやすいところも、ある意味子供の美徳だな。
切り替えのはやいヨォーヨのため――それから、不要に叱られることを避けるため、桉樹は先立っての物語の続きを話し出す。記憶のなかにある物語を喉の奥から出力しながら、ふと脳裏をよぎるのはやはり――
(そういや、アイツもこうやって話を聞かせると喜んでくれたな……)
脳の真ん中、人生でいちばん色濃く残る記憶に思いを馳せながら、桉樹は息継ぎの合間に重く深いため息をつくのだった。
何も知らない子供相手にごちゃごちゃと考え込んでいるおのれの愚かさについては、今だけは見ないふりをして。
2025/09/25
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