桑谷本丸は今日も平和である。刀剣たちは皆、畑仕事なり手合わせなり散歩なり、各々が自由気ままに生活していた。
彼らがのびのびと過ごしているところを見ると、皆が付喪神であることなんて忘れてしまいそうだ――縁側で日向ぼっこをしながら、あや袮はぼんやりと考える。
「ねえ、大将。今日も懐入っていい?」
そうしてぼうっとしているおりに話しかけてきたのは、最近顕現したばかりの信濃藤四郎だった。彼はあや袮の懐を妙に気に入ったらしく、こうして折を見ては寄ってきて、懐に入ろうとするのである。
もちろん此度も例外ではなく、信濃はあや袮が返事をするより先にぽすんと懐に入ってきた。短刀にしては背の高い彼もあや袮から見れば子供と相違なく、膝の上に納められるくらいのサイズ感だ。
「信濃……私はまだ返事をしていないが」
「えへへ……ごめんね、大将。大将の懐って、なんだか居心地よくってさ」
そんなふうに言われてしまっては、もう何を返すこともできなかった。膝の上ですっかり落ち着いてしまった赤毛を見ながら、あや袮は小さく息を吐く。
どうやら、この信濃藤四郎という刀は精神的な意味でも人の懐に入り込むのがうまいらしい。彼にねだられると何故か断ることができない――いつもなら薬研が彼を剥がしてくれるのだが、生憎と今日は任務に出ていて不在である。
「大将はここで何してたの? 大将、こうやってのんびりしてること多いよね」あや袮の心中など知らぬと言いたげに、信濃はのほほんと訊ねてくる。
「特に目的があるわけではない。日頃頭を使うことが多いから、こうして心身を休めているだけだ」
「あれ、それじゃあもしかして俺、大将の邪魔しちゃってる?」
「いや、気にしなくていい。他愛ない会話も休息にはなる」
言いながらくっと空を仰ぐと、信濃もそれに続いたようだ。涼し気な秋空は透明度がひときわに高く、ゆっくり動く雲を見ているとひどく心が落ち着いた。
「……空を見るのが好きなんだ」あや袮が続けると、信濃の肩がぴくりと揺れる。
「空を眺めていると、ほんの数秒を永遠のように感じるときもあれば、数時間が一瞬のように思えるときもある。まるで時空を越えたようなこの奇妙な感覚が、私はとても好きなんだよ」
あや袮の言葉を静かに聞いていた信濃は、やがて小さくくすりと笑って、彼女の吐露を肯定する。
「大将の言ってること、なんとなくわかる気がするよ。俺も、こうやってのんびり空を見るの、好きだな」
あや袮の位置から信濃の表情はわからないが、その声を聞けば彼がリラックスしていることくらいわかる。たまらずその赤い頭を撫でてやると、信濃はくすぐったそうにけらけらと笑った。
「大将、また一緒に日向ぼっこしようね。もちろん毎回じゃなくていいからさ」
このタイミングでじわじわ再燃中です
2025/09/21
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