どういうこと?

 ――なんだか視線を感じる。あちこちから向けられる好奇の目にミラが眉間のシワを濃くしていると、異変に気づいたらしいタルタリヤがひょこんと顔を覗き込んできた。

「随分と考え込んでいるようだけど、どうかしたのかい?」

 いきなり視界に飛び込んできた、深海の瞳。相変わらず底の見えない青に、思わず飲まれてしまいそうになる。
 スネージナヤの冷たい空気でも彼の瞳の深度は変わらない。それはミラのことを見守りながらも、どこか追いつめるようでもあった。

「なんか……すごい、見られてる気がする」
「そうかい? まあ、君みたいな黒髪はスネージナヤでは珍しいし、そのせいかもね」
「うん……でも、なんとなくそういうのじゃなさそう。昨日なんかはよくわかんないことも言われたし」

 首を傾げるタルタリヤをぐいと押しのけた途端、周囲がざわついたように見えたが……今はそんなことを気にしている場合ではない。
 おそらくあの執行官をぞんざいに扱っているように見えるのだろう。この国でタルタリヤの顔を知らない人間など、それこそこんな町中にはいるはずもない。

「通りすがりのおじさんが、『ペットがご主人様から離れていいのかい』って……わたしがスネージナヤの言葉をうまく聞き取れてないだけかもしれないけど、そんな感じのことを言われた」

 ミラがそう答えると、タルタリヤは数度瞬きを繰り返したのち、合点がいったように声をあげる。そしてたまらず吹き出したあと、「なるほどね」と得心したようにうなずき、ミラの頭をわしわしと撫でた。フード越しだったおかげで髪の毛が乱れることは避けられたが、いつもより子供扱いの比重が大きい気がして、なんとなく不服だ。
 ミラが口を尖らせていると、ひとしきり笑って満足したらしいタルタリヤが再び言葉をつむぐ。

「随分と災難な勘違いをされたね――まあ、ある意味では真実なんだけど」
「どういうこと?」
「うーん……うまく説明しづらいんだけど、たまにいるんだよね。動物だけじゃなく、人間とか、機械とか……色んなものをペットみたいにして可愛がってるようなやつらが、さ」

 肩をすくめながら言うタルタリヤは、なんとなく含みがあるように見える。
 何か思うところがあるのだろうか? 彼と行動を共にするようになってまだ日が浅いミラには理解の及ばないことであるが、長く付き合っていけばこの答えもわかる日が来るのかもしれない。

「でも心配しなくていいよ。俺と一緒にいれば君の名前も知れてくる。そうすれば、そんな勘違いをする人間はいなくなるだろうからね」

 じゃ、行くよ。言いながら、タルタリヤは再び歩き出す。
 彼の背中を追いかけながら向かう先はスネージナヤパレス――あの「氷の女皇」がおわす宮殿である。

 
とある世界任務で「!?」になり勢いで書いてしまいました
2025/09/17

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