近頃、フィーガはいつもどことなく幸せそうにしている。彼女のことを一番近くで見ているアレスは、その些細な変化を見抜いていた。
しかし、いくら些細なものであろうと、この変化は彼女がリグバースを愛していることの証だ。その表情は彼女がまだ旅人だった頃には見せてくれなかったものであり、当時に比べるとずいぶん心を開いてくれたと思う。
出会った頃のフィーガはどうにも考えていることが読めないというか、さりげなく、けれども明確に一線を引いているように見えた。故郷のことは嬉しそうに話すし、人の懐に入り込むのがうまいくせに、自分自身をさらけ出すことはほとんどしない。見えない壁と距離を歯がゆく思っていたアレスは、当時のもどかしい感情もふくめ、彼女の振る舞いをよく覚えている。
しかし、最近のフィーガからはその一線をあまり感じなくなった。考えていることがわからないのは今も変わらないし、なんなら突拍子もないことを言い出す機会も増えたのだが、それでもぐっと親しみやすくなった気がする。
たとえば……寝る前に共にベッドに入ると、時おり控えめに手を握られる。そうしてその日あったことをぽつりぽつりと話してくれる、そのいじらしい振る舞いを、アレスはひどく愛していた。
「ねえ、フィーガ? フィーガは今、幸せ?」
ちいさくて柔らかい手のひらを握り返しながら尋ねる。アレスの出し抜けな問いに面食らったのか、フィーガはおおきな藤色の瞳をぱちぱちと瞬かせるも、やがていつもどおりの笑顔を浮かべる。彼女いわく、この笑顔は祖母譲りであるらしい。
「うん、もちろん。わたし、毎日すっごく幸せだよ」
月明かりのみが照らす暗闇のなか、フィーガが身を寄せてくる。すり、と擦り寄せられた体は手のひらよりも柔らかくて、思わず手を伸ばしてしまいそうになったけれど、お互い明日は用事がある。アレスは理性でもっておのれの欲を律し、居場所をなくした手をフィーガの頬に寄せた。
「よかった。僕も、フィーガといられて幸せだよ」
「んふふ、ほんと? 嬉しいな……」
アレスくん、だーいすき――眠気でとろけた愛の告白は、やがて穏やかな寝息へと変わる。その寝息ごと愛おしい人を抱きしめて、アレスもそっと目を伏せた。
この幸せが永久に続くようにと、ささやかながら願いを込めて。
あなたが×××で書く本日の140字SSのお題は『幸せですか?』です
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2025/09/12
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