真っ暗で静かな夜を、何度も何度も独りきりで過ごした。
ハーネイアにとって、家のなかはあたたかくて安らげる場所のはずだった。大好きな家族はみんな笑っていて、暖炉の火は優しくて、おいしいココアも用意してもらえて、リビングで団欒のひと時を過ごしたあと、眠くなったら部屋に帰って眠る、そんな毎日だったのだ。
けれど、その思い出はあっという間になくなった。たった一夜にしてすべてを失った彼女は、今日もボロボロになるまで必死で働いて、ベッドに入った瞬間に気を失えるくらいおのれを痛めつけ、暗くて怖い夜をやり過ごそうとしている。
とはいえ、現実はそううまくはいかないものだ。どれだけ疲れても体はそれに慣れていくし、何より疲れれば疲れるほど眠れないような夜もある。体は限界を訴えているのに睡魔はいっさい訪れず、風の音以外が聞こえない暗がりのなかを、少しだけ湿っぽくなった布団のなかで丸まって、朝が来ることをひたすら待つ――そんな日を過ごすこともあった。
枯れることのない涙があふれ、枕はすぐに冷たくなる。遠くで聞こえてくる酔っぱらいの喧騒にこの身を投じて、自暴自棄にまみれ、すべてを忘れさせてほしいと願った日だって、ハーネイアの人生のなかには確かに存在している。
(……忘れたい。そうだ、昔読んだ本に書いてあった。すべてを忘れられるお酒――)
町のどこかにある、風に忘れ去られた場所。複雑な手順を踏んで訪れられる骨董店では、欲しいものが手に入る――そんな作り話に縋ってしまいそうになるほど、ハーネイアは参っていた。
誰も助けてはくれない。おとぎ話に出てくる王子様も、窮地を救ってくれるヒーローも、今の自分にはいないらしい。
突然窓から飛び込んでくる盗賊も、当然ながらやってきたりしない。
ハーネイアが欲しかったのは神の眼差しではなく、この地獄から救い出してくれるたった一人の手のひらだった。
ハーネイアは再び目を閉じる。絶望と共に訪れた睡魔へと、その身すべてを委ねるために。
睡眠がある種の「死」であるとするなら、彼女は毎日心のどこかでそれを望んでいるのかもしれない。
今日の月はひどく明るくて、妙に澄んでいるように見える。
あなたが×××で書く本日の140字SSのお題は『ヒーローはどこにいる?』です
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