「シラシメくん……! ごめんね、ちょっと付き合ってもらってもいーい……!?」
それは、何気ない秋口の深夜一時のことだった。
「観たい映画があるので、今夜はちょっと夜ふかししますね」夕食後のシラシメの言葉に、ナタネは快くうなずいてくれた。本当なら彼女も一緒に観たかったらしいのだが、翌日は午前中からジム戦の予約が入っていたため、泣く泣く断念したそうだ。
どちらかといえば一人で観たいと思っていたシラシメにとって、この状況は好都合である。ゆえに、おそろいのパジャマに身を包み寝室へと消えてゆくナタネを見送ったのが、つい三十分ほど前のことなのだが――
「どうしたんですか、いったい」
シラシメの腰かけるソファに飛び込んできたナタネは、太ももをピッタリとくっつけて彼の隣に陣取る。シーツをかぶり震える姿はこの間テレビで見たミミッキュそっくりだったが、ここでゴーストポケモンの話を出すとおそらくとんでもないことになるので、とりあえず黙っておこうと思う。
怯えるナタネに寄り添うようにスボミーたちが集まってきているが、今の彼女に子どもたちを構う余裕はないようだ。
「それがね、寝ようとしたら外で物音がして……何だろうって窓から覗いたら、その、く、くく黒い影が……!」
「野生のビッパとかじゃないですか? 205ばんどうろの子が迷い込んできたのかも」
「あたしも最初はそう思ったんだよ! でも、よくよく考えたらビッパほど丸くなかったし、妙にすばしっこかった気がして……ももももしかしておばけなんじゃないかと思ったら、あたし、怖くて眠れなくなっちゃったの……!」
お願い、助けてシラシメくん――そう言いながら腕を掴んでくるナタネに、かつての影がちらついた。それは彼女と初めて出会ったハクタイのもりでの一幕で、同時にシラシメがナタネに心を奪われた運命の日でもある。
ぞくりと粟立つ背筋から目を逸らして、シラシメはナタネの肩を抱く。身を寄せてきた彼にナタネは思い切り抱きついてきて、「やっぱり一緒に寝よーよう……」とか細い声で懇願してきた。
こんなに愛らしいところを見せられてしまっては、もはや断ることなどできない。
「えへへ……わかりました。映画はまた今度にしますね」
モニターを消し、震えるナタネを優しく抱き上げて、寝室へと向かう。足元のスボミーたちは二人が連れ立つところを見て納得したのか、自分たちの寝床へと帰っていった。
――大好きな人が、痩せ我慢することも、他の子に頼ることもなく、一番に自分のところへ来てくれる。その喜びを噛みしめるシラシメの横顔は、いつもより大人びているようだった。
2025/09/09
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