たった二文字の言葉から

メインストネタバレ

 

 
 近頃、フブキの腹の底には鉛が溜まるようになった。それは少しずつ心に重みをもたらし、彼の表情が曇る原因となっている。
 その鉛が決まった人と話すときだけ存在を主張してくるおかげで、ともすればその人のことを嫌っているのではないかと勘違いしそうになってしまうが……否、実際はむしろ真逆である。
 
「……フブキ様? どうかなさいました……?」

 そうして鉛に気を取られていると、ヒルダがそっと顔を覗き込んでくる。鮮烈な紫瞳にじっと見つめられると、なんだか妙にむず痒い。

「あ……すみません、ぼーっとしてしまって」
「いいえ、とんでもございません。むしろ私のほうこそ、いつもいつも話を聞いていただくばかりで、フブキ様の負担を増やしてしまっていますから――」
「まさか! ボクがお手伝いしたくて言ってるんですから、ヒルダさんは気にしないでください」

 今日はたまたま立ち寄った秋の里でヒルダと出会い、紅葉を見ながら談笑に耽っていた。話の内容は多岐にわたり、それこそアズマの文化の話や各里の美味しい食べ物から始まって、ついにはターゲスアンブルフの同胞のことなど、その膨らみようは留まるところを知らない。そしてふと挟まれるのは、フブキの双子の兄であり、ヒルダにとって因縁の相手でもあるハウンドの話である。
 彼女から聞くハウンドは、フブキの思う兄の姿とよく似ている反面、どこか別人のようでもあった。あーだこーだと文句を言いながら面倒を見てしまうところは相変わらずだが、しかし、それはフブキに見せていた姿とは異なる。
「あの人、私の焦がしたクッキーを食べてくれたこともあって……」そう語るヒルダの頬はいつもよりやや緩んでいて、まるで彼女の内に潜む哀慕の念が滲み出ているようだと、そんなふうに思ってしまう。
 ――否、こんなのはただの思い込みだ。ヒルダ自身からその複雑な胸の内を打ち明けられたこともあり、彼女がハウンドに対して並々ならぬ感情を抱いていることは知っている。それがたやすく語れるようなものでないことも、だ。
 理解しているはずなのに、どうにもこの胸はすっきりしない。ただありもしないことに思いを馳せ、勝手に腹の奥をムカムカとさせているおのれが、どうにも醜く思えて仕方なかった。
 この感情に何と名前をつけるべきか。また、出どころはいったいどこなのか? 疑問や悩みが尽きぬ反面、これらの答えを出すのはまだ先にしておきたい――そんなある種の甘えを抱えながら、ヒルダの話に耳を傾けるフブキなのだった。

 
あなたが×××で書く本日の140字SSのお題は『私の中の不可解な感情』です 
https://shindanmaker.com/613463

2025/09/08

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