あの日のアイスの味

「重雲は、アイス作るの上手なんだね」

 かし、と爽やかな咀嚼音を立てながら、桃琳が出し抜けに口を開く。彼女の手には重雲の手作りアイスが握られており、歯型の残った断面を見つめながら何度もまばたきを繰り返している。

「まあ……体質的に必要不可欠だし、これだけ繰り返し作っていたら誰でも上手くなると思うぞ」
「そうなの? ……でも、そっか。アイスも鍛錬と一緒かあ」

 陽光を反射するアイスを興味深そうに見る桃琳は、棒きれをまわすように忙しなく手首を動かしている。子供のように純粋な瞳はアイスにも負けないくらい透き通っていて、かつてガラス玉のようだった彼女の瞳がちらついた。
 今日のアイスはミントの代わりにスイートフラワーを入れていて、いつもより少し甘みが強い。そのぶん清涼感には劣るが、たまにはこうした気分転換もいいだろうと判断した。虫が寄ってこないように管理をきちんとしておけば問題ないはずだ――もっとも、妙に五感の鋭い桃琳にはたやすく見抜かれてしまったが。
「桃琳はアイスが好きなのか?」ふとよぎった疑問をそのまま口にする。重雲の問いかけに桃琳は一瞬彼のほうへ視線を動かして、悩むように首を傾げた。

「うーん……好き嫌いはちょっとわかんないかも。だってわたし、重雲の作ってくれるアイスしか食べたことないし」
「じゃあ、もう少し普通のアイスを食べたほうが……」
「んーん、いらない。わたしにとっての『普通』はこれがいいんだ」

 言いながら、桃琳は最後のひと口をふくむ。あっという間に棒きれ一本になったアイスの残骸を前に、重雲は謎の焦燥感に駆られた。――否、別に謎ではない。桃琳の手があいたということはつまるところ鍛錬の再開を意味していて、さっさと自分のアイスを食べ切らないと彼女に襲いかかられてしまう。
 慌ててアイスにかぶりつく重雲を見ながら、桃琳は困ったように笑う。彼女の手には得意の得物が握られていたが、幸いにもそれが重雲に飛んでくる気配はなかった。

「大丈夫だよ、さすがに今すぐ仕掛けたりはしないから。ちゃんとゆっくり休憩してね」

 いつもより冷たさをはらんだその声は、やはり重雲の焦燥感を煽るのだった。

 
重雲くんお誕生日おめでとう!お祝いの話ではないけど誕生日メールから着想を得ました
2025/09/07

送信中です

×

※コメントは最大1000文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!