さすがにそれは反則ちゃう?

「ねえ、テゾーロ? アズマの言葉で、オレの瞳の色は何て表現するんだい?」

 マウロが話を振ってきたのは、夏の里の陽射しを東屋の下でやり過ごしていた、昼下がりのことだった。
 この里で暮らすようになってもう何年も経つが、照りつける太陽にはいつまで経っても慣れる気がしない。湿気がないぶん過ごしやすくはあるものの、梅雨の神であるあめにとって、この陽光は時に毒として降り注いだ。

「急に何を言い出したかと思えば――んなもん、あんたなら訊かんでもわかることちゃうの」
「まあ、それはそうなんだけどさ。でも、どうせならアンタの言葉で聞きたいんだよ」

 ――ね? 甘ったるい声でささやかれてしまっては、もはや断ることなどできない。正直少し癪だけれど、今はもう彼に対する誤解や嫌悪感はなく、むしろ愛してしまった手前、望みとあらば答えてやりたい。
「……わかった」言いながら、あめはぐいと身を乗り出してマウロの双眸を見つめた。アズマではあまりお目にかかることのない碧眼は、まるで雲ひとつない晴天のように澄んだ色をしている。
 優雅な晴れ空を前にすると、ここ数年のことがいくつも思い起こされてしまう――彼と出会ってから、色んなことがあったものだと。そもそもあめがこうして再び顕現できたのは彼が樹枝を持ち帰ってくれたからだし、そこからあめの神生は目まぐるしく変化した。あんなにも嫌悪していたよそ者と一緒になるだなんて、目覚めたばかりの自分に言ってもきっと信じてもらえないだろう。

(ほんまに、神生ってのは何があるかわからんな――)

 少しずつ大きくなっていく空色を見つめながら、じっと思案にふける。気づけばそれはあめの視界いっぱいに広がったあと姿を消して、瞬きする暇もないほどさりげなく、あめのくちびるに柔らかな感触をもたらした。

「なっ……!?」

 そして、それはあめが喚くよりも先に離れていく。
 遅れてやってきた瞬きの合間には、満足げに笑うマウロの顔が映し出された。
   
「はは、ごめんね。オレのことをじっと見つめるテゾーロを見てたら、つい」
「まさかあんた、最初っからそのつもりで……!?」
「さーて、どうかな――」

 とぼける表情が「答え」だった。お叱りが飛んでくる気配を察したのか、マウロはすっくと立ち上がり、「遅くならないうちに帰るよ」とだけ言い残して去っていく。あめにできたことはわななく手のひらをおとなしくさせることと、悠々と去っていくマウロの背中を見送ることだけだった。

 
2025/09/05

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