あまい光

 まんまるの頬を指でつつく。深く寝入っているせいか無防備なそれは普段よりも柔らかくて、思わず夢中になってしまった。
 何度つついてもこねくりまわしてもいっさい目を覚ます気配のない子猫は、タルタリヤの腕の中で安らかな寝息を立てている。あまい色をした薄氷の瞳が見えないのは少し寂しいが、こうして気を許して熟睡している姿を見るのは気分が良いので、今はあまり気にしないことにしよう。

(……これだけ熟睡してるなら、ちょっとかじっても起きないんじゃないか?)

 やわい頬をつまんでみる。やはり起きる気配はない。それどころか眉のひとつも動かすことなく、あまつさえむにゃむにゃと擦り寄ってくる始末だ。
 ――くらり。ほんの一瞬、眩暈がした。このまま獣のごとく彼女の頬に噛みついて、その身を食らってやろうかと思ってしまう。以前似たようなことをして思い切り怒られてしまったので、さすがに二度は繰り返さないつもりだが、にわかに下腹部が重たくなったのは紛れもない事実だった。おのれがこの子猫に夢中であることを自覚するたび、愛おしさと自嘲の混ざった笑みがこぼれる。
 この気まぐれな子猫は夜になるたび、抱き枕にされると寝づらいだの、硬いだの、夜中にトイレに行けないだのと文句をたらたら言うくせに、眠る頃には自分から腕のなかにやってくる。そうして満足気にくふくふと笑いながら安らかな寝顔を見せてくれるのだ。
 その無防備な寝姿を見ると、彼女の「気まぐれ」がただのポーズであることを思い知らされる。その心根が子猫とは似ても似つかない、もっとおっとりとした素朴な少女であることを、タルタリヤは誰よりもよく知っていた。彼女の殺したがっているその「心根」が、未だ根強く生きていることも。
 しかし、タルタリヤがそれについて言及することはほとんどない。なぜならその自己に対するある種の殺意が、彼女の覚悟のひとつであると察しているからだ。

(本当に不器用だよねえ。……ま、そこがかわいいんだけどさ)

 重たい下腹部を鎮めるために深呼吸をして、小さな体を思い切り抱き込む。明朝に出会う薄氷の瞳に思いを馳せながら、そのあまい光を求めて。

 
貴方は×××で『美味しそうに見えた、なんて末期だ』をお題にして140文字SSを書いてください。
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2025/09/03

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