※メインストネタバレ
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「君ってほんとにゲーム下手くそだよね」
隣でコントローラを握っているハウンドが、心底呆れたように言う。横目に見る彼の両指はせわしなく動き続けていて、のんびりと働いているヒルダのそれと並べると、まるで違うゲームを遊んでいるようだった。
「そうね、あなたに比べたらそうだと思うわ」
「べつに比べなくても……はあ、まあいいや」
ヒルダと話すとき、ハウンドは「もういい」だの「なんでもない」だのと口にすることが多い。それは決して嫌悪や諦めのたぐいではなく、否、ある種の諦めではあるのかもしれないが、それでもハウンドがヒルダのそばを離れることはなく、あーだこーだ言いながらいつもヒルダを助けてくれるのである。
今だってそうだ。決してヒルダから誘ったわけではないのに、ハウンドはヒルダのことを手伝ってくれている。今回二人がプレイしているのは世界的に有名なサンドボックスゲームで、ヒルダが好んでプレイしているものだ。しかし彼女は建築や植林といった作業は得意であるものの、戦闘になるとからっきしである。そこいらの雑魚モンスターにすら簡単にやられてしまう彼女を見かねたハウンドが、ため息混じりに手を貸してくれた、というわけだ。
一回限りならただの気まぐれで済まされるだろうが、その実こうして二人で肩を並べながらゲームをする機会は何度もあった。そして、この何気ない戯れの時間をヒルダはひどく好んている。ハウンドはどうか知らないが。
「……君さ」
……ああ、またマグマに落ちてしまった。おのれの命に加えて持ち物まで失ってしまったヒルダは、ベッドの上で目を覚ます。ヒルダがマグマに落ちて死んだことを通知で察したらしいハウンドは、素朴な疑問を彼女にぶつけてくる。
「そんなにゲーム下手くそで、楽しいの?」
「そうね。暇があればやってしまうくらいには楽しんでるわよ」
「こんなにすぐ死ぬのに?」
「それもこのゲームの醍醐味だもの」
「ただ建築するにしても、モンスターの素材がほしいとかあるでしょ」
「少し前までは困ってたわ。でも、今はあなたがいてくれるから大丈夫」
刹那、ハウンドはおおきなため息を吐く。しみじみと、そして呆れ返ったようなそれは、ハウンドからはあまり聞かないたぐいのもののような気がする。
隣でがっくりとうなだれる、モノクロ頭を見守った。しばらく黙ったあと、絞り出すように紡がれた言葉は少し聞き取りづらかった。
「……フブキには言うなよ」
「どうして?」
「あいつもゲーム下手だから。デカい音ですぐにビビるし、キャインキャインうるさいよ。だから、何かあったら先に僕に声かけて」
彼の真意を読み取れないまま、静かに「わかったわ」と返す。のろのろと頭を起こしたハウンドは妙に口数が少なかったが、いつもより少しだけ優しかった、気がした。
2025/08/27
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