「私、ボディガードなんていらないと思ってたわ」
ヴェリテくんのフィルムを交換しながら独りごちるシャルロットを、ウェルテルは見守っていた。彼女がこちらに話しかけているのだと気づいたのは、まるみを帯びた頬がふくりと膨れた頃だった。
ウェルテルの眉間にシワが寄る。どうにか話を逸らしたかったが、シャルロット相手にそんな小細工が無意味であることも、この数ヶ月で理解していた。
「そのボディガードに向かって、よくもまあそんなことが言えたもんだな」
「逆よ、逆。ウェルテルさんだから言ってるの」
「なんだよ、じゃあ俺もいらねえってか」
「そんなわけないでしょ! ……ああ、もう。確かに今のは私の言い方が悪かったわね」
ヴェリテくんをホルダーにしっかり収めてから、シャルロットは振り返る。相も変わらず妙に煌めいた碧眼はまっすぐこちらを見つめていて、思わず背筋がぞくりとした。善良で満ち足りた人間の視線は、いつもウェルテルの居心地を悪くする。
「私、ウェルテルさんのことを『いらない』なんて思ったことないわよ。どんなにきつーく叱られたって、たったの一度もね」
「……んでだよ」
「ふふーん! さーて、なんでだと思う?」
やけに勝ち誇ったような顔で、シャルロットはそう続ける。試すような視線は決してこちらを責め立てるようなものではないけれど、ずっと暗がりにいたウェルテルにとって、その眩しさは毒だった。
しかし、黙っていてもまた次の「眩しさ」がこちらに降りかかる。どうにかこの場を凌ぐために、ウェルテルはまたひとつぶっきらぼうな悪態をつくのだ。
「興味ねえな、そんなこと」
「なんでよー!」
「仕事には何も関係ねえだろうが。オラ、そろそろ出発の時間だろ。さっさと準備しろ」
「むう……あーあ、やっぱりウェルテルさんは手強いわね」
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2025/08/26
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