ロズレイドは辟易していた。今すぐにでも二人の頭の上から「しびれごな」をふっかけてやろうかと思うほどに、長らく続く痴話喧嘩を横目に見ながら、数え切れないほどのため息をついている。
「まったくもう、シラシメくんのわからず屋!」
「ナタネさんこそ、どうして僕の話を聞いてくれないんですか」
「なによー! ちゃんと聞いた結果でしょ?」
二人の言い合いはずっと並行線だ。きっと始まりはいつもどおりくだらないことなのだろうが、そんなことロズレイドにはよくわからないしどうでもいい。ポケモンにとっては人間のケンカなどすべて取るに足らないことだし、正直なところ知ったこっちゃない。もちろん、それは逆も然りなのだが――
ケンカなんて好きなだけすればいいというのが本音だが、しかし、ただひとつだけ問題がある。それは先日から預かっている、生後間もないナゾノクサがケンカに怯えていることだ。
ナゾノクサはロズレイドの背中に隠れ、おそるおそる二人の様子をうかがっていた。おそらく人間のケンカに慣れていないのだろう、これが彼らなりのコミュケーションであり、このあと急に仲直りして今度は妙に距離が近くなる、そこまでがセットであることもきっと知らない。
ロズレイドにとってナタネはおのれの主人であり、シラシメはそのパートナー、つまるところ家族である。大切にしたい存在なのは真実であるが、今のロズレイドには幼い命を守る役目があるのだ。おくびょうな彼女を駆り立てるのは、年長者の自覚と責任感である。
「とにかく、トイレの電気を消し忘れたのはあたしじゃないから! ポケモンたちには立ち入らないよう言いつけてあるし、だとしたらシラシメくんしか考えられないでしょー?」
「僕がそんなミスすると思います? ナタネさんの家でお世話になっている以上、電気の消し忘れやドアの閉め忘れには人並み以上に気をつけてます。だから、僕が忘れるなんてありえないんですよ」
――ああ、これは長くなりそうだ。すべてを察したロズレイドは、ナゾノクサを柱の影まで案内し、二人のもとへと歩み寄る。
彼女の渾身の「しびれごな」が見舞われるまで、あと三秒――
まいにちSSはじまるよ〜
2025/08/25
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