マグマラシとの散歩中、夫婦の痴話喧嘩を耳にしてしまった。
彼らはコンゴウ団のなかでも比較的優しくて、すれ違うと毎回挨拶してくれる人たちだ。愛想も良くて夫婦仲も良さそうだったから、そんな二人でもこんなふうに喧嘩するんだと少しびっくりした。
なんだか立て込んでいる様子だったからと、ついつい茂みに隠れてしまったのが良くなかったのかもしれない。なぜなら、数十分に渡って痴話喧嘩の一部始終を聞く羽目になってしまっているのだから。
(信じてるからこそ、『きらい』なんて言えるのかな……)
あんなに仲の良さそうな二人なのに、弾みで「きらい」なんてひと言が出てきてしまうものなんだ。あたしは湿った土の匂いと言いようのない気まずさを感じながら、必死に体を縮こまらせた。
――「きらい」なんて、あたしは絶対、言えないな。そのひと言でセキさんを傷つけてしまうかもしれないと思うと、それこそ視界が滲んでしまう。
何より、そのたった三文字をきっかけにあのあたたかい手を離されてしまったら。そうしたら、今度こそあたしは終わってしまうから。
(……ううん。そんなことない。セキさんは絶対、そんな無責任なことしないもん)
喧嘩の空気に飲まれてしまっているのかもしれない。あたしは後ろ向きな考えを振り払いたくて、隣のマグマラシをぎゅうと思いきり抱きしめた。
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貴方は×××で『嘘でもいえない』をお題にして140文字SSを書いてください。
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2024/09/08