SS(原神/重雲)

色褪せた桃色

 の養父との面識は、正直なところ、あまりない。顔や名前はもちろん知っているし、何度か言葉を交わしたこともあるけれど、特段親しいつもりはなかった。 いつだったか、あそこの義親子が鍛錬に励むところを覗き見たことがある。ぼくには想像もつかないよう…

わたしの人生って、

 わたしの人生は無駄なものなんかじゃなかったって、胸を張って言えるような人間になりたかった――なんて、そんなキラキラした考えはとうの昔になくなった。否、もしかするとどこかに忘れてきてしまったのかもしれない。 こういうとき、世間では「お母さん…

約束なんて意味がない

「なあ、。ナタに温泉があるという話は知っているか?」 重雲は、まるで大切にしまっておいた宝箱を開けるように、わたしに話を切り出した。彼の話の種は遠く離れた国、ナタについてのことだった。 重雲は続ける。自分には「純陽の体」があるから、きっと温…

元素反応:溶解夢主死ネタ

 冷たい秋風に吹かれるたび、を抱えて走ったあの日のことを思い出す。 少しずつ冷たくなっていく四肢。まるでただの「物」、もしくは中身のない器のようになっていく体を持ち上げながら、無我夢中で走った夕暮れ――あれはぼくにとって忘れられない記憶のひ…