Log/SS(FE)

彼の言葉がひとつもあれば(ディミトリ)近親愛

「ウィノナが断るわけもない」そう言ってのけるディミトリは確信に満ちた顔をしていて、心の底から彼女に対して気を許しているようだった。彼女の愛を享受している。他人が言えば門前払いでも彼の言葉なら簡単に聞き入れてしまうのだから、彼女の首を縦に振ら…

狂おしいとはこのことか(クロード)

目と目があった。手が触れた。同じ空気を吸っている。それだけで胸が高鳴るのは隣にいるのがクロードだからだ。ウィノナはそばにいることだけでなく、彼の生涯の伴侶として愛されることまで許されてしまった。毎日のように想いが募る。彼の気配がそこにあるだ…

とある戦士の残した手記(ディミトリ)近親愛

 1186年 角弓の節 3の日。ファーガス神聖王国は、帝国への勝利と「救国王」の即位により、類を見ない騒がしさを見せていた。 景気が良い、喜ばしい、活気がある、そう言えば聞こえはいいのかもしれないが、こちらとしてはあれやこれやのてんてこ舞い…

新天地(クロード)

「くろ……ああ、違ったわね。ここではカリードだったんだわ」「ん、どうした。呼びづらいか?」「慣れない気持ちのほうが強いかしら。だって、私はずっとクロードと呼んでいたもの」「そうだな……ならそのままで呼んでくれ。ここじゃあクロードなんて呼び方…

雨と逢瀬(ディミトリ)近親愛

「ねえ、殿下。ご存知ですか? 人の声が一番綺麗に聞こえるのって、傘の下なんだそうですよ」囁くようなウィノナの声は、優しく、そして労るように俺の耳へと滑り込んだ。雨音に混じる互いの声。吐息と少しの足音が、なんとなく世界との隔絶を思わせる。「……

たったひとりのあなた(ディミトリ)近親愛

「ウィ……ウィノナ? その――」おそるおそる話しかけてくるディミトリの目的がどこにあるのか、ウィノナはもう知っていた。おいで、と両手を広げてみれば、彼は安心したように微笑ってウィノナに身を預けてくる。こうするとひどく落ちつくのだと言って目を…

その目を閉じて、さあここで(ディミトリ)近親愛

夜な夜な悪夢に魘されていること。味覚が非常に鈍っていること。未だそこにある亡者の気配に時おり身を震わせていること。左腕のしびれが残り続けていること。眠れない夜、苦しい最中、私にすべてを委ねていること。誰も、何も知らなくていい。私だけそこにい…

口説き文句(アッシュ)

「僕、君にちょっとだけ嘘を吐きました。初恋の話、なんですけど」曰く、心に住まうはひとりだけ。夢に見るのも私のこと。ただひとり、何年もずっと想い続けてここにいると、そう打ち明けたアッシュの頬の紅が、鏡のようにこちらに移る。私が音を上げたとてな…

殺し文句(ディミトリ)近親愛

「あらやだ、そんなに見られると照れるのだけれど」「いや……その、お前は本当に綺麗だなと思って。ずっと見ているはずなのに、日毎美しくなっていくお前に見惚れていたんだ」「ちょ、ちょっと待って」「この世のどんな美辞麗句を並べても、お前の麗しさを表…

獅子王の牙(ディミトリ)近親愛

「別に支障はないだろう、どうせ晒す機会などないのだから」夜毎に増える首筋の痕。鬱血痕ならまだいいほうで、時には深く食い込んだ歯の形が残る日もある。獅子王と呼ぶに相応しい、捕喰者の目を向けられるたび私が何も出来なくなることを知ってなお、否、知…

穏やかな木々の声がする(ディミトリ)近親愛

終戦間もなくから続く激務の最中、無理やり休みをもぎ取らせた昼下がり。膝の上に寝転ぶ愛おしい人は不器用に寝息の真似をして、まるでこの一瞬すら惜しいとでも言いたげに意識を保とうとしている。「私はどこへも行かないわよ」そう声をかけるとかくんと力が…

鼓動の音が虫の息(アッシュ)

頬が熱いのは誰のせいだ。胸が逸って、鼓動がうるさい、それも、いったい、誰のせいだ。薄い唇が「好きだ」と宣う。慈しみを湛えた目がこちらを見て、淡い緑を優しく細め、ひたすら私を愛そうとする。もう限界で、お手上げだ。頼りないはずの胸板にぎゅうとキ…