雛の巣立ち

07

「やったじゃないか、世長。ついに念願のジャックエース」 ゆったりと照らす月明かりの下、僕の背中をぽんぽんと優しく叩く先輩は、いつもどおり柔らかくその目元を緩ませている。 秋公演も無事に終わり、程なくして僕たちは冬公演へと臨むことになった。此…

06

 僕と、二番手の恋しようか――そうささやく先輩の声が、もうずっと鼓膜の奥に貼りついて消えてくれない。 夏合宿のあの夜から一転、僕たちの関係はみるみるうちに変わってしまった。……否、変わらざるを得なかったと言うべきか。「……おはよう、世長。よ…

05

 こん、こん。控えめにドアをノックすると、思ったよりも近いところから主の声が聞こえてくる。 やがてけたたましい足音とともに、おそらくあと一歩前に立っていたら額と事故を起こしていたかもしれないと危ぶまれるほどの勢いで、思い切りドアが開いた。ド…

04

 新人公演と夏公演が無事に終わり、八月も十日を過ぎればさあいざ征かん夏合宿――というわけで、ユニヴェールではクォーツのみならず、生徒たちのほとんどが胸をわくわくと昂ぶらせている。 海堂先輩のご厚意や菅知の口利きで、アンバー以外の三クラスは今…

03

 自分の身の上を知ったのはいつだったかな。細かい年齢は正直覚えてないんだけど、小学校低学年くらいの頃だったと思う。 断っておくが今の義父はとても気の良い人であって、決して彼が故意にバラしたとか、酔いが回ってぶちまけたとかそんな間抜けな理由じ…

02

「すッ――すみませんでした!!」 翌朝、土下座でもしそうな勢いでやってきたのは案の定、世長創司郎だ。 穏やかなノックの音に騙された――と言っては語弊があるが、ドアを開けた瞬間に世長は風切音が聞こえん速さで僕に頭を下げてきた。元気そうといえば…

01

スズ√固定の話、来年度くらいの設定--- 木陰に隠れてうなだれる後ろ姿に、なんとなくの覚えがあった。 しっかり立っているのにどこか儚げで膝を抱えているようでもあるその背中は、僕のなかに今まで感じたことのない衝動を呼び起こす。考えるより先に体…