短編(嘉明)

どうしていつも私から

 ――ウェンツァイはずるい! 喉から出かかった本音を、既のところで飲み込んだ。 今、の目の前にはケラケラと楽しそうに笑う嘉明や、そんな彼にじゃれついて遊んでいるウェンツァイの姿があった。二人が仲睦まじい関係であることは誰の目にも明らかであり…

いつだって一番そばに

 家を継ぐ者として、涙腺の緩さは大敵だと思っていた。  自分は幼い頃からひどく泣き虫で、それこそ少し驚かされたくらいで簡単に涙が出てしまうような子供だった。 特段気が弱いわけではないのだが、ちょっとした刺激ですぐに涙がこぼれてしまう。嬉しい…

眠りこけてる場合じゃない

 ――嘉明のバカ! だいっきらい……! 見知った少女が泣きながら叫んでいる。 痛ましいその様子は見覚えのありすぎる光景で、もはや懐かしさすら感じるくらいだ。人としての良心のみならず郷愁の念まで刺激するそれは、心地よく浸っていたはずの睡眠をぴ…