原神

今度はすっかり知らん顔

「……何が、ほしいの」 この身を抱え込む両腕へ、ひどく唐突な問いかけをした。  ……あれから。スネージナヤより送られてきた宝の山を二人で仕分けしたあと、幼気な弟妹、気遣わしげな兄姉、優しそうな両親による手紙を確認して――さすがのタルタリヤも…

子供のような横顔で

 たくさんの荷物が届いている。フロントから運ばれたそれらは入り口の扉前をこんもりと占拠していて、少々身をよじらなければ出入りに支障が出るほどだ。 なぁに、これ。口にしてから呆然とそれらを見る。差出人は重なる荷物のせいでよく見えなかったが、あ…

はじまりの楔

 幼い頃に交わした、宝物のような「契約」があった―― その人は、いつもどこか淋しそうに笑っていた。他人が寄りつかないような奥まった場所に暮らし、時おり顔をあわせては、ぼくに向かって笑ってくれる。ぼくはその笑顔を見るたび少しだけ胸が熱くなって…

さいしょの記憶

 正直なところ、わたしは「家族」や「親」というものがよくわからない。自分が他人の腹から産まれた実感が希薄なのだと思う。 それがなぜなのかと言われたら、わたしは物心つく頃には既に一人で、気がついたときにはもう、そばには誰もいなかったからだ。嫌…

後悔

 わたしの命の期限というのは、どうやら人より短いらしい。 それを知ったのはもう何年も前のことだけれど、常人よりも死が近いことを恐れたことは不思議となかった。もしかすると、わたしは自分の命に関してひどく無頓着で傍観的なのかもしれない。 という…

わたしに遺された一年

「重雲っ、お誕生日おめでとう! だーいすき!」 ばむ、と正面から抱きつくと、重雲はいつも涼やかにしている瞳の凛々しさをまんまるに溶かす。無防備かつ素直なその表情が、わたしはひどく好きだった。「おい、! いきなり抱きつくのはやめろっていつも……

ひねくれるよりはずっといい

「たまに思うんだけど……重雲、君は平気なの?」 風の涼やかな昼下がりのこと、口を開いたのは行秋だった。出し抜けなそれは日陰に座り込んで特製のアイスをかじっている重雲へと向けられている。 脈絡もない親友の問いかけに、重雲は凛々しい目元をほんの…

泣きたいときには好きなだけ

 何か特別な言葉をかわしたわけではないが、先日一夜を共にしてからというもの、ディルックと同衾する機会はぐっと増えた。 もちろん夜毎ふれあうわけではなく、むしろただ寄り添いながら眠るだけの毎日だ。ディルックの匂いが染みついた柔らかなベッドに入…

花びらより落ちる影

※公式キャラの失恋描写があります ---  ――しばらくは色々と忙しくなるだろうし、落ち着くまでの間バイトは休んだほうがいい。花言葉へは執事に使いを頼むとしよう。 ディルックの言葉に甘えた結果与えられた休暇も、昨日で終わりを迎えてしまった。…

あなたをあなたと呼べるまで

 今日のアカツキワイナリーには予想外の来客があった。――否、彼は本来であれば「来客」ではなく、ただ久しぶりに「帰ってきた」だけだ。 モンドではあまり見ない褐色肌と、特徴的な眼帯。どこかエキゾチックな容姿をしたその人は、かつてディルックと共に…

意味のある一瞬

「――ウェンティ、やっと見つけた……!」 それは、囁きの森でぼうっと過ごしていた昼下がりのことだった。ゆっくりと迫ってくる空腹の気配をごまかすように慰めていた頃、ぜえ、ぜえと息を荒らげた少女が、突如視界に飛び込んできたのだ。 不意の来訪に吟…