原神

猫ちゃんでも、許せない!

 ディルックは大きく目を見開いた。眼前に広がるその光景から、いっさい目を離せなかった。 今、ディルックの隣には猫と戯れるがいる。一人と一匹は仲睦まじく遊んでいて、猫に構われて嬉しそうなをそばに置きながら、読書に勤しんでいたところだった。 紙…

悔しい、

「――飽きないの?」 口をついて出たそれは、あまのじゃくのせいじゃない。常日頃から頭の片隅に住まう本音のひとつだった。 わたしの疑問を受けた海の瞳は、こぼれそうなほどまんまるに見開かれている。……どうやら、思い当たる節はいっさいないらしい。…

そんなところまで……!?

「傷の手当てくらい自分でできるのに」 どこか不満気に口を尖らせながらも、がその手を引くことはない。 目の前に差し出された腕はすらりと伸びているものの、そこには生々しく血を流す傷口がいくつもあった。俺はそれらを丁寧に確認しながら、ひとつずつ手…

狡猾な優越感

 妹は――「九条裟羅」は、時折り何の知らせもなくふらっと山へ戻ってくる。 片割れの帰還といわれれば、俺としてはひどく喜ばしいことに違いない。しかし、妹は単なる里帰りでやってくることもあれば、どことなく思いつめたような、神妙な顔をして戻ってく…

知られざる焔

 あの子には――には、これ以上つらい目にあってほしくない。その一心で僕はあの子を屋敷へと招き入れ、一人にならないで済む環境を作った。 しかし困ったことに、僕はあの子を前にするとただの卑しい男に成り下がってしまうらしい。……あの子は決して知る…

毎朝もらえる「特別」を

 無防備に晒された寝顔を、ぼんやりした頭で見つめていた。 わたしがディルックさんの寝顔を見る機会は、最近になってとても増えた。同じ部屋の同じベッドで共に朝を迎えるようになって、それからしばらくした頃からだ。 いつもずっと上のほうにあるディル…

くらやみのばけもの

 時おり、息のしづらくなる瞬間がある。 自分はこんなところにいるべき人間じゃない。陽のあたる場所に立てるような身分なんかじゃないだろうと、いつも耳元で誰かが囁いている。普段はそんなもの簡単に振り払ってしまえるけれど、時としてその声は俺の足元…

サンドイッチ

「タルタリヤってさ、そんなにお金余ってるの……?」 訓練の休憩中、腹ごしらえのサンドイッチをつまむ最中に、そんなことを訊かれてしまった。俺は最後のひと口をぽんと放り込みながら、怪訝そうな顔をするに目をやる。言葉の続きを促すためだ。「だって、…

この堅物女……!

 近頃、兄さんは私に対して意地の悪いことを言う回数が増えた。揚げ足をとるような下品な真似こそしないものの、どうにもからかわれることが増えたというか、いわゆる「イジリ」を受けることが増えたというか…… けれど、それも仕方のないことだ。兄さんの…

ちいさな島の森の奥

※現パロ、あつ森やってる世界線--- ここ数ヶ月、はとあるゲームに夢中になっているようである。僕自身はあまり触ったことのない部類だが、牧歌的な雰囲気はあの子によく似合うもので、熱中するのも頷ける。 しかし、最近はその度合いがやけに目立つよう…

野良犬マニュアル

 ――タルタリヤのばか! きらい! あっちいって!! かわいいかわいいと遊んでいたら、とうとう怒らせてしまったらしい。否、彼女が俺にたいして本気で怒ることなんてそうそうないし、これも結局は怒ったふり、ただのポーズだと思うけど。 とはいえ、ご…

私の知らない君が増えてく

 ――夢を見た。嘉明が翹英荘を出ていく日の、何も言えなかったときの夢。 この夢を見るのはいったい何度目になるだろう。きっと、両手両足すべての指を使っても数え切れないくらいの回数、私は嘉明を見送っている。いつもいつも何も言えなくて、いつもいつ…