時おり、息のしづらくなる瞬間がある。
自分はこんなところにいるべき人間じゃない。陽のあたる場所に立てるような身分なんかじゃないだろうと、いつも耳元で誰かが囁いている。普段はそんなもの簡単に振り払ってしまえるけれど、時としてその声は俺の足元までもをがんじがらめにし、いっさいの動きを縛るのだ。
その魔の手はやがて俺の体のなかまで入り込み、呼吸のみならずまともな思考回路すら奪っていく。そうして、どうにも目が眩むような、今すぐにでも消えてしまいたいような衝動を俺にもたらすのである。
――けれど。
「ほらほらっ、ウェルテルさん! 何してるの? そろそろ次の取材にいくわよっ」
俺が、そうして底なし沼に沈みそうになるたび。一筋の光もない真っ暗闇で鬱ぎ込みそうになるたび、この手を引くやつがいる。本人は何にも意図してないのだろうが、いつもいつも、これ以上ないくらい絶好のタイミングで、俺のすべてを覆い隠すバケモノを払ってしまうのだ。
「……んな声張り上げなくても聞こえてるっつの」
「ふふっ、そう? なんだか俯いてたみたいだったから、気付でもしてあげようと思ったんだけど」
「大きなお世話だ」
「もう! 相変わらずつれないんだから」
けらけらと楽しそうに笑いながら、そいつは俺の前を歩く。まばゆい光によって浮かび上がったシルエットを、俺の目に刻みつけるかのように。
……今はまだ、素直にその手を取ることはできない。それでも、こいつの持ちうる「何か」が俺の腹の奥に溜まった膿を掻き出しているという感覚は、絶えず俺のなかにあった。
その感覚が俺にもたらす感情は――少しの安心と、無視のできない恐怖、だった。
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あなたが×××で書く本日の140字SSのお題は『居場所』です
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2024/10/08
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