狡猾な優越感

 妹は――「九条裟羅」は、時折り何の知らせもなくふらっと山へ戻ってくる。
 片割れの帰還といわれれば、俺としてはひどく喜ばしいことに違いない。しかし、妹は単なる里帰りでやってくることもあれば、どことなく思いつめたような、神妙な顔をして戻ってくることもある。本人は普段と変わらないつもりなのだろうが、共に生を受けたこの俺には一切合切がバレバレだ。
 
「どうしたんだ、妹よ」

 いつもどおりに声をかけながら丸い頭に手を置くと、妹は下げた視線をそのままに、無言で俺の袖を握る。ぎこちない動作は彼女の性質をよく表しているようであり、俺は口元が歪むのを必死で隠しながら、ぽすん、と何度も頭を撫でた。
 ……不器用な子供だ。俺からすれば、天領奉行の大将様などただの幼子に過ぎない。責任感が強すぎるあまりにじんわりとおのれの首を絞め、着々と破滅にも似た道を進んでいる――そうしてギリギリの崖っぷちに立たされてやっと、こいつはおのれの限界を自覚し、俺のもとへとやってくるのだ。

「おまえも、相変わらず難儀なやつだな」
「……兄さんには関係ないだろう」
「はは、そうかい。……そうだな、そうかもな」
 
 妹は、いっさい俺と目をあわせようとしない。かといって俺の手を撥ねつけようとすることもなく、それは俺がその身をきつく抱きしめても、決して変わることはなかった。
 くったりと、しなだれかかるような体。俺にすべてを預けんとする、不器用ながらも無防備な魂。……こういうやつだ。だからこそ俺は、この不慣れな甘えの時間に、後ろ暗い喜びと優越感を抱いているのである。
 俺と共にあるときの安らぎは、きっとあそこの人里では決して得られないものであるだろうから。

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あなたが×××で書く本日の140字SSのお題は『で、そのココロは?』です
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2024/10/14

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