雪は解け、草木はもゆる
「ねえ、ディミトリ。覚えてる? いつか私が、エーデルガルトに嫉妬していたって話をしたこと」 それは、爽やかな風が吹く夏のことだった。 フォドラの北方にあるフェルディアでは、夏といえど茹だるような暑さを感じることはない。ここは一年の半分以上寒…
ファイアーエムブレム 短編(ディミトリ) 細氷に光る懐刀
深層にかくして
――空が泣いているようだ。 そんな、自分らしくもない詩的な表現が口をついて出たのは、浮かれているせいなのだと思う。頭上にある青の外套が目の端に映るたび、私の心臓は親に褒められた子供のようにはしゃいでは跳ねた。 くすり。穏やかな吐息混じりの…
ファイアーエムブレム 短編(ディミトリ) 細氷に光る懐刀
待っていてね
※ネタバレ注意 --- 「セテス様、お願いがあるんです」 ファーガス神聖王国がフォドラを統一してから、おおよそ十年の月日が経った頃だった。 出会ったときからいっさい風貌の変わらない、今となっては義父のような存在である彼に、は粛々として申し出…
ファイアーエムブレム 短編(セテス細氷) 細氷に光る懐刀
どうしようもなく母であれ
※子がいるしネタバレもある「親の因果が子に報う」とは、がこの上なく、それはもう蛇蝎のごとく嫌っている言葉だ。父親にも母親にも色々と抱えるものがあるにとって、親の罪や振る舞いがおのれの人生にまで影響してくるだなんてとてもじゃないが許容できない…
ファイアーエムブレム 短編(アネット) 細氷に光る懐刀
君の姿は
自分たちはどこかよく似ていて、けれども全く持って違う種類の人間である。がドロテアと関わるとき、思うことはいつもそれだ。 直感めいたその認識は出会ったときから決して消えてはくれなくて、しかしそれを確かめる術も、はたまた撤回する方法もにはよく…
ファイアーエムブレム 短編(ドロテア) 細氷に光る懐刀
翠雨の節31の日
「ドゥドゥー、誕生日おめでとう」 王城の渡り廊下で起きた巡り会い。 出し抜けな祝辞と贈り物に、ドゥドゥーは目をまんまるにして固まった。あまりにも唐突すぎて驚きを通り越しているのだろう、に差し出された包みを何も言わずに流されるまま受け取ってい…
ファイアーエムブレム 短編(ドゥドゥー) 細氷に光る懐刀
僕らが育むこれからの
「――よし。これで大丈夫だと思うよ。多分、あっちの土は水分も多いし、ちょっとお水をやりすぎちゃったのかもしれないね。この花はもっと乾燥しているほうがいいから」「なるほど……やっぱり、それぞれに適した環境があるのね」「そうだね。でも、一気に全…
ファイアーエムブレム 君との軌跡(???) 細氷に光る懐刀
軌跡を辿る
言っておきたいことがあった。最後の最後になるけれど、胸に燻っているこの気持ちだけはちゃんと伝えておきたかった。 やらずできずの後悔は、もういっさいやめにしたかったのだ。 たとえ押しつけがましい結果になったとしても、ある種のケジメとして、私…
ファイアーエムブレム 君との軌跡(戦争編) 細氷に光る懐刀
あどけなく、無邪気な
――今度こそたくさん一緒にいたい。あの頃より自由になった僕で、君のとなりにいさせてほしいんだ。 まるで、魔道の爆発を目の当たりにしたときのように。アッシュのその言葉が耳の奥にこびりついて、いっさい離れないでいる。 嬉しかった、のだと思う。…
ファイアーエムブレム 君との軌跡(戦争編) 細氷に光る懐刀
二人で夜に沈みたい
鼓膜に滑り込んでくるのは、そよ風で木の葉が擦れる音と和やかな梟の歌声くらい。ひどく静かで穏やかな夜が、あたりをすっかり染めている。「……なんだか、今日はいつもと逆だね。普段は僕が君を呼び止めることが多かったから」「そうね……確かに私、ずっ…
ファイアーエムブレム 君との軌跡(戦争編) 細氷に光る懐刀
必ず誰かが手をとって
――まえ、もか。お前も、否、お前こそ! 嗚呼、そうして、再び俺の前に現れるのか……ッ! 耳の奥に木霊する怒声と呼応するかのごとく、右手がびりびりと痺れ、震える。数時間前、軽くではあるが彼に――かの剛力を持つディミトリに、すげなく払われたせ…
ファイアーエムブレム 君との軌跡(戦争編) 細氷に光る懐刀
稲妻、落ちる
「おはよう、。あれから調子はどうかな?」 朝。突然呼び止められたのは、学生寮の階段を降り、花壇に目を向けながらぼうっと歩いていたときだった。 風にそよぐ花々は、私の心をひたすらに癒やしてくれる。それと同じように彼の――アッシュの声すらもまた…
ファイアーエムブレム 君との軌跡(士官学校編) 細氷に光る懐刀