見てるのか?

 フィーガはとても寝相がいい。それはもう、時おり心配になるくらいに。
 どれくらい寝相がいいかというと、ひとたび寝入ってしまえば朝まで微動だにしない、なんてこともあるくらいだ。否、もちろん僕だって一晩中見張っているわけではないし、実際は寝返りくらい打っているのだろうけれど、それでも夜と朝で彼女のポジションが変わっていることはほとんどない。
 フィーガと一緒に寝ても多少ベッドが狭いくらいで、たとえば頬に手が当たったとか、お腹の上に足が落ちてきたとか、そんなアクシデントが起こったこともない。それはとてもありがたいことなのだけど、冒頭でも述べたとおりたまに心配になってしまうのだ。
 フィーガがこのリグバースに根を下ろし、定住の道を選んでくれたことは理解している。ただ、もともとが旅人ということもあり、未だに妙な不安が拭えないというか、いつか簡単にこの手をすり抜けていなくなってしまうのではないかという疑念の種が、僕の心には巣食ったままなのだ。
 ここにいるのに、いないような気がしてしまう。どれだけ触れて、彼女を暴いて、その存在を確かめても、その不安だけは消えてくれない。

「……本当に、よく寝てるな」

 こうして深夜に目を覚ますと、まずは隣のフィーガを確認する。すうすうと穏やかな呼吸を繰り返すフィーガは、寝落ちたときのままずっと僕の手を握っていた。僕のほうに身を寄せて擦り寄る姿勢はかわいらしく、妙な庇護欲をそそってくれる。
 起きていたら、このままキスのひとつやふたつもしてやれたのに――カーテンの隙間から覗くまんまるの月は僕に邪念を連れてきてくれたようだが、いくら結婚しているとはいえ、寝込みを襲うようなことはしたくない。
 とはいえ、このまま寝顔を見ているとますます変な気を起こしてしまいそうだ。僕はおのれを落ち着けるため、夜風を求めてゆっくりと体を起こした――の、だが。

「うわっ……フィーガ!? お、起きて……は、いない、よね……?」

 刹那、おとなしかったはずのフィーガが腰のあたりに抱きついてくる。声をかけても返事がないのて、おそらく眠ったままなのだと思うけれど……まさか、意識もない状態で僕のことを引き留めようとしてきたのだろうか?
 少しばかり耳を澄ましてみるも、寝言のたぐいは聞こえない。依然として穏やかすぎる寝息がかすかに聞こえるのみで、フィーガが起きているとは到底思えなかった。

「……困ったな」

 こんな深夜に、たった一人で、妻への愛おしさを噛みしめさせられるなんて。しかし、だからこそ僕はフィーガの手を振りほどきたくて仕方なかった。変なことをしないよう気を紛らわせたかったのに、無意識とはいえ彼女自身が僕を煽ってくるだなんて。
 かわいいフィーガを見ていたい、そのくちびるに触れたい気持ちと、彼女の嫌がることをやりたくない気持ち。そのふたつに挟まれながら、僕は顔を覆う。誰にも聞かれることのないため息だけ吐き出すも、唯一それを見ていた月は僕を嘲笑っているようだった。
 

貴方は×××で『生存確認』をお題にして140文字SSを書いてください。
https://shindanmaker.com/587150
2025/10/26

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