※Z-Aネタバレ有(かも)
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――ねえ、キョウヤ。どうしても話したいことがあるから、あとで屋上に来てくれる?
ホテルZの古びたエレベータのなか、アルトラの言葉を反芻する。タウニー特製クロワッサンカレーを食べ納めたあとの彼女は、いつもどおりおだやかで、けれどもどこか決意に満ちた表情をしていた。
ゆっくりと昇るエレベータの到着音は、まるで帰郷へのカウントダウンのようだ。開いた扉に従ってキョウヤが一歩を踏み出すと、屋上のソファで待っていたアルトラと目があう。
「キョウヤ……! ありがとう、来てくれたんだね」
「アルトラのお願いなんだから、もちろん。それで、オレに何の話?」
「んふふ……まあ、とりあえず座ってよ」
導かれるまま、アルトラの隣に腰を下ろす。プリズムタワーの荘厳な光に照らされる頬は大人びたラインをしていて、彼女のことをどこか遠くの存在に見せた。
明日からは物理的にも遠くなってしまうのに――明朝にはミアレを発つことを思い、少しばかり視線が下がってしまう。そうしてふと気づいたのは、いつもアルトラと一緒にいるタブンネの姿が見えないことだ。
「タブンネは連れてきてないのか?」
「うん、部屋で休んでるよ。二人っきりにしてほしかったから無理言っちゃった」
肩をすくめながら言うアルトラは、イタズラっ子のような顔をして笑っている。
……こんな表情、ここに来たばかりの頃はいっさい見せてくれなかったな。当初より無防備になった彼女の振る舞いは、まるでこのホテルZで過ごした日々を象徴しているかのようだ。
「ふふ……わたしってやっぱ、意気地なしだな。せっかく覚悟を決めてあなたを呼んだのに、いざとなったらこんなに尻込みしちゃってさ」
「アルトラ……?」
「……あのね、キョウヤ。聞いてほしいんだけど――」
キョウヤが顔を上げるより先に、アルトラの手がキョウヤのそれと重ねられる。繊細な指先が淹れてくれるコーヒーは、ホテルZでの朝をいつも彩ってくれていたっけ。
「本当はね、言わないつもりだったんだ。あなたって、タウニーとはまた別の意味でお人好しでしょ? だから、わたしがこんなことを言うと困らせちゃうと思って」
「……オレ、アルトラのことで困った覚えなんてないよ」
「本当に? もう、相変わらず口上手なんだから」
言いながら、アルトラはぐっと夜空を見上げる。つられて視線を上げてみると、ちらほらと雲が覗く空は満天の星空とは言いがたい色をしていた。しかし、これがミアレで見る最後の夜空なのかと思っと、それもまた愛おしく、名残惜しい。
「……わたし、ダメな女だからさ。最後の最後に、あなたを困らせたくなっちゃったんだよね」
刹那、キョウヤがまばたきする間もなくアルトラの顔が近づいてくる。毎朝飲んでいたコーヒーと彼女の愛用する香水が混ざった香りは、まるで「ねんりき」でも食らったかのように、キョウヤの頭をぐらつかせた。
ぼやけた頭では、状況をきちんと把握できない。ゆえに、おのれのくちびるに触れた感触がアルトラのそれだと気づくのにも、いささか時間がかかってしまった。
現状を飲み込めたのは、甘ったるくとろけた瞳にじっと見つめられた頃だった。
「ねえ……わたしが何を言いたいか、わかる?」
キョウヤくんがミアレを去るルートの話
2025/10/25
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