あなたを思い出しただけ

 今日のガルグ=マクは暑かった。翠雨の説も半ばに差し掛かった頃、突然の猛暑日の到来に修道院はてんやわんやである。
 生徒の大半は制服を夏服に着替え、教師たちも普段より薄着で歩いている。外套を脱いだがゆえにハンネマンから風紀が乱れると叱りつけられ、それに対して熱中症の危険性を説くマヌエラなど、普段とは一風変わった――否、見慣れた光景が木陰で休むクロードの目の前を通り過ぎていった。
 パルミラに生まれ育ったおかげで、クロードはある程度なら暑さにも慣れている。ゆえに此度の猛暑日はそれほど苦ではないものの、この山の気温に慣れはじめた体には想像よりも効いたらしく、ほんの少し歩みが鈍り、こうして涼しいところに避難していたというわけだ。

「……ほら、あげるわ」

 そんな折り、クロードの視界には美味しそうな氷菓子が現れる。棒状のそれを差し出す整えられた爪の主は、涼し気な頬に汗を伝わせながらクロードの隣に腰を下ろした。

「ウィノナ……! 助かったぜ、暑くて暑くて死にそうだったんだ」
「私の目にはずいぶん余裕そうに見えるけれど」
「はは、そうか? まあ、お前みたいなファーガス出身のやつと比べりゃあな――」

 もらった氷菓子を遠慮なく口に含む。今日という猛暑日のため、食堂では大急ぎで氷菓子を量産しているらしい。理学の得意な生徒が駆り出されるところはここに来るまでの道中でも何度か目にしたし、おかげで気温が下がっている食堂の周辺には人が殺到し、結果的に暑くなっているという本末転倒な話も聞いた。

「……これ、もしかして二人で分ける用のやつか?」
「そうだけど」
「それを俺と? しかも、これってお前の苦手な味じゃあ」
「文句があるなら返してちょうだい」
「おっと!」

 伸びてきた腕をひょいとかわして、氷菓子を咥え直す。……どこか懐かしい味で思い出すのは、先日東方から珍しい果実が入ってきたという話だ。
 フォドラには自生していないこの果実は、クロードにとってはひどく馴染みある味なものの、フォドラの人間にはいわゆる「上級者向け」であるはずだ。現に、ウィノナもいささか渋い顔をしながら氷菓子を舐めている――

(自分の苦手なものを、俺のために? ……何の理由で?)

 そっぽを向くまるい頬を見ながら、がじ、と氷菓子をかじる。無理して食べているわけではないのだろうが、クロードに比べるとウィノナの食の進みは遅い。
 ――自分の好きなものを食べればいいだろうに。好物を覚えてくれていた喜びと同時に湧き上がる彼女への疑念は、クロードの氷菓子の味をほんの少しだけ苦くする。
 そこに何の打算もないことを知るのは、まだ少しだけ先の話だ。

 
2025/08/31

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