「――よしっ。シラシメくん、お誕生日おめでとう!」
ぱん! とひかえめなクラッカーが鳴ったのは、日付変更線をまたいだ直後のことだった。
正直、期待していたところはある。ナタネさんなら今年もお祝いしてくれるだろうと、人知れずずっとそわそわしていた。とはいえ、こんなふうにいきなりクラッカーを持ち出されるとは思っておらず、僕はうっすらとした火薬の匂いを感じながら、何度も瞬きを繰り返している。
「あはは、びっくりした? じつはずっと隠し持ってたんだよね」
「……ベッドの上でクラッカーなんて、掃除が大変ですよ〜?」
「それはね、いいのいいの。片づけるのはあたしだし、特別な日くらいちょっとだけ悪いことしよーよ」
スボミーのぬいぐるみを抱き込みながら、ナタネさんはくるんと寝返りを打つ。こちら背中を向けたせいで表情は読み取れないものの、その何気ないモーションにささやかな「アピール」を感じ取ってしまった。
そっと、その細い肩に触れる。こちらに視線をやるナタネさんは、いつもより少しだけ悪い顔をして笑っていた。
「このまま寝るつもりなんかないでしょ?」
――僕の負けだ。大好きな人にこんなことを言われて、断れる男がいったいどこにいるというんだ。
僕は誘われるようにナタネさんに覆い被さって、艶めいたそのくちびるを奪う。細い腕が首の後ろにまわされたのを合図のようにして、静かで激しい夜がゆっくりと更けていきはじめた。
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あなたが×××で書く本日の140字SSのお題は『何度でも』です
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2024/09/16